今月歌舞伎座で上演されている、
舞踊「傀儡師(かいらいし)」。
江戸の街に現れた大道芸人である、
傀儡師の姿を写した舞踊です。
「傀儡」とは くぐつ、木で作った人形。
この人形を操る心持ちで、
傀儡師自身が
いろいろな人物になりきって踊る趣向。
〽蓬莱の島はめでたい島での
黄金枡にて 米はかる
紗の紗の袴 紗の袴⋅⋅⋅
蓬莱島という豊かな島を歌った、
おめでたい詞章。
〽竹田の昔 はやしごと⋅⋅⋅
古き合点でそのままに
「竹田の昔」とは、竹田の人形芝居が、
傀儡師を祖としていることから。
〽小倉の野辺の一本芒(ひともとすすき)
いつか穂に出て 尾花とならん
露が嫉(ねた)まん 恋草や
「小倉の野辺」とはどこでしょうか?
元歌があるのではと探してみました。
「小倉山 ふもとの野辺の花すすき
ほのかに見ゆる 秋の夕暮れ」
(詠み人知らず、新古今和歌集)
〽恋ぞ積もりて 淵となる
淵じゃごんせぬ花嫁に
仲人を入れて祝言も⋅⋅
「恋ぞ積もりて淵となる」⋅⋅⋅
元歌は、
「つくばねの峰より落つるみなの川
恋ぞ積もりて淵となりぬる」
(陽成院、小倉百人一首)。
そして、恋の連想から嫁入りの様子。
〽三人持ちし子宝の
惣領息子は親に似て⋅⋅⋅
⋅⋅⋅女に憂身 やつしごと
二番息子は堅造で
ぽきぽき折れる とげ茨
三番息子は色白で
お寺小姓に やり梅の
吉三と名をも夕日影
三人の息子たちの話。
それぞれの性格付け、描写がおもしろい。
〽それとお七は 後ろから
見る目可愛き水仙の
初に寝締の うれしさに
恋という字の書初めを
湯島に上げし筆つばな
八百屋万の 神さんに
堅く誓いし縁結び⋅⋅⋅
三男の吉三を見初めた八百屋お七の物語。
幼い恋心を描きます。
〽そこらにひょっくり弁長が
いよいよ色のみばえだち
差し合いくらずに やってくりょ
お七の恋を後押しする弁長が登場。
この弁長は1月の「松竹梅湯島掛額」
にも登場(名は紅長でしたが)。
猿之助さんが楽しそうに演じていました。
〽やれ どらが如来⋅⋅⋅
本郷あたりの八百屋のお娘(むす)が
十六ささげになんねえ先から
末は芽独活(めおと)に 奈良漬なんぞと
胡麻せた(こませた)固めを
松(しよう)露のしるしに
き生姜(起誓が)書いたり
小指を胡瓜(切ると)は さりとはさりとは⋅⋅⋅
弁長のちょぼくれ。
八百屋お七にちなみ、
青物尽くしになっています。
〽既に源氏の御大将
御曹司にて まします頃
長者が姫と 語らいも⋅⋅⋅
源氏の御大将、源義経と浄瑠璃姫の恋物語。
〽そもそもこれは
桓武天皇九代の後胤 平知盛が幽霊なり
源氏を敵とする、平家の武将平知盛が登場。
能の「船弁慶」、歌舞伎の「碇知盛」を思わせる
凄みのある幽霊。
〽眺めありおう箱鼓 とりどりなれや鳥籠と
替わればぱっとたちまちに
雀追わえて慕いゆく 雀⋅⋅⋅
鳥籠から雀を逃がし、
それを追い掛ける心持ちで幕。
坂東流での踊りの場合は、
この後 唐子が登場し
中国風の不思議な歌に合わせて踊ります。
多くの人物が、くるくると入れ替わる
楽しい舞踊です。
今回は幸四郎さん。
それぞれの人物を
どう踊り分けるのか、楽しみです。