今年見た歌舞伎の舞台。
覚え書きです。

〈三代目市川右團次襲名披露〉

*心に残る演目*
①「雙生隅田川」
初舞台の市川右近くん、6歳にして芸達者。
しかも可愛らしい。

新⋅右團次の猿島惣太と鯉つかみは、安定。
猿之助の班女御前の切なさ。
米吉の瑞々しい若衆姿も目に残っています。

この「雙生隅田川」は、『三代猿之助四十八撰の内』のひとつ。
現⋅猿之助は今後これらの演目を、
どういった形で上演していくのかという興味もあります。
(今年は猿之助丈の怪我もありました。
本舞台ではない、アンコールでのできごとだったそう。
もっと大きな事故につながったおそれもあり、
骨折で済んだのは、不幸中の幸いとも。)

②「大商蛭子島」
寺子屋の賑やかさから一転して、
頼朝(松緑)と文覚上人(勘九郎)の一見とぼけた、
実は緊迫したやり取り。
政子の前(時蔵)の「黒髪」にのせた嫉妬、
古風で華やかな出陣⋅⋅⋅と見どころの多い舞台でした。

劇評などでは賛否両論といった感じでしたが、
埋もれた演目にはしないでほしいと思います。

なお、寺子娘の一人として出演していた中村京紫丈が、
翌々月にお亡くなりになったのはいたましい。

③「修禅寺物語」
気位の高い姉娘の桂を演じた猿之助。
死に行く間際に父に見せる表情の美しさ。

夜叉王の彌十郎、
いつもの好人物な雰囲気を抑え、
諦めの境地で物事を見ている人物像。

妹娘の楓、新悟。
きれい、存在感が増しました。


〈初午の地口行灯〉

*初めて見る演目*
そこそこある観劇歴ですが、
今年は初めて見る演目が多くありました。

「雙生隅田川」
「猿若江戸の初櫓」
「大商蛭子島」
「扇獅子」
「明君行状記」
「通し狂言 伊賀越道中双六」
「通し狂言 霊験亀山鉾」
「鯉つかみ」
「奥州安達原ー環宮明御殿の場」

このうち、
「通し狂言 伊賀越道中双六」
「通し狂言 霊験亀山鉾」はそれぞれ、
吉右衛門丈、仁左衛門丈による意欲的な復活上演。
(それぞれ2度目の上演ですが。)

見逃してしまったものの中にも、
「漢人韓文手管始」や「坂崎出羽守」、
そして実に39年振りの上演という「隅田春妓女容性」。

古いものを掘り起こし、後世に残そう
という気運が働いているように感じます。


逆に新作の試みでは、
「野田版 桜の森の満開の下」、
菊之助の「マハーバーラタ戦記」、
吉右衛門丈が書き下ろし、東京初演の
「再桜偶清水」という、清玄桜姫もの、
中村屋の「赤目の転生」など。




*七十代レジェンド達の活躍*
「四千両小判梅葉」の富蔵、
「魚屋宗五郎」の宗五郎、
「雪暮夜入谷畦道」の直次郎、
それぞれ趣の異なった役柄ですが、
菊五郎丈が
「江戸」というものを体現してすばらしいです。

幸四郎丈、吉右衛門丈、仁左衛門丈といった
若いときから立役の第一線に立ってきた方たちが、
さらに円熟した芸を見せてくれています。




*今年見た舞台*
〈1月〉
『壽新春大歌舞伎』 新橋演舞場 昼の部
三代目市川右團次襲名披露
二代目市川右近初舞台
「通し狂言 雙生隅田川」

〈2月〉
『猿若祭二月大歌舞伎』 歌舞伎座 昼の部
一、「猿若江戸の初櫓」
二、「大商蛭子島」
三、「四千両小判梅葉」
四、「扇獅子」

〈3月〉
『三月大歌舞伎』 歌舞伎座 昼の部
一、「明君行状記」
二、「義経千本桜ー渡海屋、大物浦」
三、「神楽諷雲井曲毬ーどんつく」

『通し狂言 伊賀越道中双六』 国立劇場


〈4月〉
『四月大歌舞伎』 歌舞伎座 昼の部
一、「醍醐の花見」
二、「伊勢音頭恋寝刃」
三、「熊谷陣屋」

〈5月〉
『團菊祭五月大歌舞伎』 歌舞伎座 昼の部
七世尾上梅幸二十三回忌
十七世市村羽左衛門十七回忌 追善 
一、初代坂東楽善
  九代目坂東彦三郎
  三代目坂東亀蔵  襲名披露
  「梶原平三誉石切」
二、「吉野山」
三、「魚屋宗五郎」

〈7月〉
『七月大歌舞伎』 歌舞伎座 昼の部
一、「矢の根」
二、「盲長屋梅加賀鳶」
三、「連獅子」

『平成29年7月 歌舞伎鑑賞教室』 
解説「歌舞伎のみかた」
「一條大蔵譚」


〈8月〉
『八月納涼歌舞伎』 歌舞伎座
第一部
一、「刺青奇偶」
二、上 「玉兎」
  下 「団子売」

第二部
一、「修禅寺物語」
二、「東海道中膝栗毛
    歌舞伎座捕物帖」

『第三回 双蝶会』 国立劇場小劇場
「一條大蔵譚ー奥殿」
「傾城反魂香ー土佐将監閑居の場」


〈10月〉
『通し狂言 霊験亀山鉾』 国立劇場

〈11月〉
『吉例顔見世大歌舞伎』 歌舞伎座 昼の部
一、「鯉つかみ」
二、「奥州安達原ー環宮明御殿の場」
三、「雪暮夜入谷畦道」


以上13公演。
他にも見たかった公演、
見逃してしまった感の強い演目も多いですが、やむを得ないです。

来年もよんどころない理由で、
本格的な観劇は春からになりそうです。