歌舞伎座「吉例 顔見世大歌舞伎」昼の部を観劇。

今月は顔見世なので、まねきが揚げられています。

歌舞伎らしい演目が並んでいます。



一、鯉つかみ
染五郎が、鯉の精と滝窓志賀之助の二役を演じます。
早替わり、本水の立ち回りなど、いきいきと楽しそう。

鯉が化けている貴公子然とした志賀之助、
時折鯉の本性を現して⋅⋅⋅
本物の志賀之助は毅然として、
立ち回りでは力強く⋅⋅⋅

鯉の精を追って花道の引っ込みでは、
「染高麗」の大向こうが掛かりました。
来年1月の松本幸四郎襲名を控え、私は
染五郎としては見納めになりそうです。


「鯉つかみ」は長年途絶えた演目になっていましたが、
近年愛之助や染五郎によって上演されるようになりました。
理屈抜きに楽しめ、歌舞伎らしさも十分味わえる演目。

染五郎はこの「鯉つかみ」を、
昨年夏にラスベガスで上演しました。
障子の影の鯉の姿は、
プロジェクトマッピング風に映し出されていましたが、
これもラスベガス土産のようです。



二、奥州安達原
降りしきる雪、勘当の末に盲目となり、
幼い孫娘を伴って親元を訪れる娘、袖萩。
しかし親たちは主の手前もあり、
許すことはできません⋅⋅⋅。

この演目では、袖萩と後に登場する安倍貞任を、
同じ役者が演じることが多いようです。
先代の猿之助丈はこの役を得意として、
繰り返し上演していました。

吉右衛門も前回上演の折には、
袖萩と貞任の二役を演じたようですが、
今回は、袖萩を雀右衛門、
貞宗を吉右衛門と分けて演じました。

雀右衛門の袖萩。
三味線を弾いたり、子役を使ったり、
また盲目の役のため終始眼を閉じたまま、
かなり技巧が必要な役だと思います。
しかし役の気持ちから、
自然に動いているように見えました。
(この子役さんも、最初から最後まで出ずっぱり、
仕事も多くなかなか大変な役です。
今回は、劇団のお子さんが交互出演されているようで、
この日は女のお子さんでした。)

吉右衛門の安倍貞任。
大きな存在感です。
花道で呼び止められ、見顕しまでわくわくするよう。
娘と死にゆく妻袖萩への思いが万感。

錦之助の八幡太郎義家。
これまでになかったような風格を感じました。

今月は雪の演目が多いです。
「奥州安達原」、次の「雪暮夜入谷畦道」も雪景色。
夜の部では、「新口村」も降りしきる雪の中。
花道には白い雪布が敷いてあります。


三、雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)
本名題は「天衣紛上野初花」(くもにまごううえののはつはな)。
この三千歳と直侍の部分は「雪暮夜入谷畦道」。
また単に、「三千歳直侍」、「直侍」と呼ばれたりします。
二人の束の間の逢瀬は、
清元の曲「忍逢春雪解」(しのびあうはるのゆきどけ)
に乗って演じられますが、
この曲も単に「三千歳」と呼ばれたりするようです。

河竹黙阿弥が明治の初めに、
去りゆく江戸を懐かしんで作った演目のひとつ。
多くの人に愛され演じられてきました。

直侍は御家人、
武家崩れの小悪党ですが、憎めない。
花魁の三千歳とも深く心を通わせています。

これまでに、いろいろな方の直侍を見ました。
團十郎、仁左衛門、吉右衛門、三津五郎も。

今回は菊五郎の直侍。
(これまでに何度も見たような気がしていましたが、
私は2度目のようです。)
悪事に手を染めていても、
お坊っちゃん育ちの甘やかさがにじむ感じ。

時蔵の三千歳は妖艶さに加えて、
「一日逢わねば千日の⋅⋅⋅」と思い患っている雰囲気も。

新造の千代春・千代鶴は、京妙と芝のぶ。
花魁と直はんへの情がにじんでいました。

「そば屋」での脇、
亭主の家橘、女房の斉入、按摩丈賀の東蔵。
この3人のやり取りに味があって
見入ってしまいました。