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「義経千本桜」…そして三代目市川猿之助。
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今月の歌舞伎座は三部制、
「義経千本桜」を上演しています。


第一部では、「碇知盛」として、
市川染五郎さん(知盛)、市川猿之助さん(典侍の局)。

第二部は、「いがみの権太」として、
染五郎さん(維盛)、猿之助さん(お里)。

第三部では、「狐忠信」として、
「道行初音旅」で、
染五郎さん(静御前)、猿之助さん(忠信)。

お二人が、がっちりと組んでお芝居しており、
うれしい限りです。

観劇の予定はまだ先なのですが、
劇評や、見に行かれた方の観劇レポなどによると、
いずれも好演のようです。

第三部の「道行初音旅」(吉野山)では、
猿之助さんの忠信に、
染五郎さんが静御前で付き合うような形で共演、
今後あまり見られない組み合わせかと思います。


おもだか屋の「吉野山」は、幕切れ近くに、
狐の本性を強く表した演出があります。

静御前を先に行かせた後、
舞台が薄暗くなり、
忠信が蝶に戯れかかる…
衣装が「ぶっ返り」の手法で
白地に火炎模様の着付けに変わると、
狐のように跳びはねながら、花道に消えていく。
…という、よりドラマチックな幕切れになっています。

また、舞踊の歌詞も少し異なり、
「萬歳」という部分が加えられています。

「徳若に御萬歳とは
君も栄えてまします…

やしょめやしょめ京の町のやしょめ
売ったるものは何々
蛤蛤…蛤見しゃいなと
売ったるものは何々
蛤早き貝合わせ」

静御前と忠信が、一時主従を忘れて、
恋人同士のように踊る、楽しい部分です。
(今回の上演でも、
こちらがカットになっていないことを願います…。)


おもだか屋の義経千本桜、
先代の猿之助さん(現・猿翁)が、繰り返し上演しました。

1988年7月、歌舞伎座では、
知盛、いがみの権太、忠信(「鳥居前」から「四の切」まで)を、
すべて一人で演じました。

<このときの広告。>

私はまだ、歌舞伎を見始めたばかりの客、
古典の通し狂言であることや、
普段「スーパー歌舞伎」で
名を馳せている猿之助さんの舞台であることなどから、
何となく敷居が高く感じ、見に行くことはしませんでした。

しかし後日、この舞台は
テレビの舞台中継で放映され、
そのビデオはそれこそ、
すり切れそうなくらい、繰り返し見ました。

猿之助さんの「吉野山」忠信は、
表情や振りにややオーバーな表現があるものの、
踊り込んでいくテンポの良さ、
要所要所で決まった形の美しさがありました。

「スーパー歌舞伎」での成功は、
こういった基本の力があってこそ 、と感じました。



<歌舞伎座の7月は猿之助公演。
…そんな時代は昭和40年代半ばから
平成15年まで続きました。