初老の風鈴売り、幻のように咲き乱れる向日葵畑を凝視していました。
どの向日葵も、背伸びをするように太陽に顔を向けて、力いっぱい光を浴びていました。
「い……嫌あぁぁぁぁあ~っ!」
その時、お佐久ちゃんの、恐怖に満ちた叫び声は、咲き乱れる向日葵畑に木霊したのです。
そして、ひときわ大きく花を咲かせた向日葵は、朽ち果てた霧渕博士の白衣を持ち上げ、風に揺れていました。
今から思えば、多分……土蔵の冷気が、向日葵畑を腐らせていたのでは、ないでしょうか……。
ほんの一瞬、それも永遠に続くと錯覚させるようなほんの一瞬、止まっていた時間が動き出したようだった。
八名川警察署の取調室に座る、青白い顔をした加藤の髪は、うなりをあげる黒い扇風機の風に揺れた。
あんぐりと口を開けたままの刑事は、加藤を凝視していた。
「か、加藤……それでお前、さっき、言いかけてたな……東都日報の資料室で、見つけた写真がどうとか……あ?」
「……死亡欄にあった、フランク・シュテルン博士の写真です……」
加藤は机の上に一枚の古い写真を置いた。
フランク・シュテルンが、治療台の患者の頭を両手で支え、観察している写真だ。
「この患者の顔を、よく見てください……」
その患者は薄目を開けて、不自然に、ありえない格好に首をねじった霧渕博士だった。
「大病を患った、霧渕博士は……おそらく、フランク博士の手によって、治療を施されたのでは、ないでしょうか……」
目を伏せたまま、静かに語る加藤。
刑事は手の甲で、青ざめた顔の汗を拭っていた。
「つまり、その……死んでたって、のか……」
「霧渕博士は言ってました。肉体崩壊の恐怖と……維持するための、果てしない努力……そして、そのしわ寄せと、どう折り合いをつけるか……」
刑事は机に置いたままの写真を凝視する。
「フランク博士が施した、その当時の……不完全だった治療で蘇生された博士は……冷房装置に頼らない、完全な日常を模索してたのでしょう……」
加藤は絶望的に頭を抱えた。
「そして、ぼくは……いつの間にか、あれほど悩まされた、親不知の痛みもなくなり……」
力任せに自分の着物の胸元を、大きく引き裂いた。
「その引換えに……いつの間にか、いつの間にか!」
加藤に胸には、、鎖骨から鳩尾に向かって大きなT字型の縫い傷があった。
「あの、教えてください! 一郎太君は……一郎太君は、どうしているのでしょうか……」
その後、加藤純夫は特殊な事情にて、約八年ほど隔離観察されたが、熱中症に似た病状により肉体崩壊、脂肪に至る。
一郎太は、政府の方針により一時的に独国へ身柄を預けられたが、その後行方不明となり、日本国より死亡を宣言される。
佐久は北関東の精神病院にて、現在も入院中である。
「偉いわねえ、一郎太……こんなに綺麗なお塩を探してくるなんて……ねえ、先生……」
了。


いい天気だなあ。










