富裕層は日本にいなくなっても仕方ない | 税務調査専門の公認会計士・税理士、たけよしのブログ

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お久しぶりです。
毎日暑い日が続きますね。



今日は、エイベックスホールディングスの松浦社長の記事につき、大変興味深かったのでご紹介させてください。http://www.huffingtonpost.jp/2013/08/13/masato_matsuura_n_3738948.html



記事の内容は、日本の所得税と住民税は高く、所得の半分以上も持っていかれるのは納得できない。相続税も半端ない。世界には所得税が安い国もあるし、相続税がゼロの国もある。こんな政策が続けば日本からは富裕層が出ていくだろう。というものです。



これを読んでまず私が感じたことは、

松浦社長は一般のサラリーマン(給与所得者)よりも税金に対する知識・意識が高い

ということです。



たくさん稼ぐ人は税金も「半端ない」状況で嫌でも目が行きますし、何とかならないかと考えるから税金に対する知識が深まるのでしょう。



そして、日本に限らず富裕層・成功者への羨望の目はありますから、富裕層が「税金が高いから何とかしろ」と声を上げてもこの記事のように批判を受けるだけです。



しかし、批判をする前に少し考えてみましょう。



批判1「「稼ぎ頭を失った家族」が路頭に迷うのが心配なら社会保障に力を入れるのが当然でしょう。そこで相続税云々するのは「自分の家族にしか興味がない」って意味じゃん。」


残念ながら、日本の社会保障が不十分なことはお分かりかと思います。



社会保障は麻生氏が言うように、「たらたら飯を食って体を壊した奴ら」のために、健康に気を遣い、働くことができる人が費用を負担する社会主義のようなものですから、富裕層は多額の納税を通して確実に社会保障に力を入れて(力を入れられさせて)います。



そして、相続税は「現金納付」が原則です。



不動産や非上場の株式など、流動性が著しく低いものを億円単位で相続した場合、その半分を現金で納付する必要があります。



例えば、あなたの家長が亡くなられたとき、「あなたは土地と家を相続され、その時価は9千万円と算定されました。ですから、2500万円をすぐに現金で払ってください」と言われ、「はい、わかりました。」と2500万円をすぐに用意できますか?



用意できなければ、先祖代々受け継いだ土地は国から差し押さえられます。



つまり、相続が発生すると現金が必要になるわけで、松浦社長はこのことを知っていて、「(現金が用意できないのに)うかつに死ぬと家族が路頭に迷う」という表現をされたのだと思います。



こういう制度を知らず、「自分の家族にしか興味が無い」と批判するのは的外れな気がしますし、こういう対策をしない富裕層は、逆に言うと愚かとしか言えません。



いや、税金の仕組みを知らず相続税で搾り取られるだけの愚か者は、この国では富裕層にはなり得ないかもしれませんね。



批判2「こういう、自分の富は自分で稼いだものって人は、なんで相続税に反対するんだろうか?家族は「自分」じゃないんだから、家族も自分で稼げばいいじゃん。国に取られるのが嫌ならたとえば出身校に寄付でもしとけ」


まず、日本では「所有権」は完全ではありません。



例えば、家や建物を所有しても、固定資産税がかかります。



自動車を買えば自動車税がかかります。



そして、自分が死ねばこれら資産について相続税がかかります。



つまり、日本では高価なものについては、実質的に国が一部所有していることになります。



これは「日本のインフラを使用して稼いだものだから、国が一部所有するのは当然」という理屈で説明されますが、担税力の観点からは、所得や消費ではなく、所有資産に税金をかけることは前者に劣るとされています。



要するに、相続税はそもそも制度的にやや問題がある税の仕組みであり、松浦社長は自己がその問題に直面しているから、前述のような疑問を持たれたのだと思います。



「相続税になぜ反対するのか」と批判する輩は、今現在そういう問題に直面していないだけであり、何かの拍子に大金を手に入れれば、手のひらを返したように相続税に批判を加え始めると思います。



ちなみに、母校に寄付をしても、「寄付をする前の支払税額」 < (「寄付した金額」 + 「寄付をした後の支払税額」)  となります。



国にとられる額は減っても、負担総額では増えます。



また、不等号「<」を等号「=」にするには、政党への寄付、すなわち、自民党や民主党などに政治献金する方法があります。




批判3「成功した人は全部自分の力だけで成功したと思いこむ典型だね。シンガポールがどうして安い税金にできるのかすら考えたことすら無さそうだ。成功者だけ安い税金で釣って他国のインフラ努力を吸い上げているだけ。」


シンガポールの税制には疎いですが、「シンガポールのようなあくどい国家に行きたいなら、好きに行け」ということでしょうか。



しかし、富裕層に出て行かれて最も困るのは貧困層と大多数の中流層です。



税金を通して日本の財政に大きく貢献する富裕層が出ていく流れができれば、その他の人々の税負担が重くなるだけですから、国としてはこの流れは絶対に阻止しなければなりません。



実は、今までは何もしなくてもある程度阻止できていました。



最大の障壁は「言語」と「習慣」です。



日本は世界的に見てもかなり変わった言語体系で、英語とはほぼ対極にある言語です。



そして、日本の習慣が他国から見て相当変わっているのは説明不要でしょう。



日本語と日本の習慣になじんだ富裕層が海外に行って長く住んでもストレスを感じるだけでしたので、ある程度の海外脱出は阻止できていました。



しかしながら、今はグローバルです。



英語を話せる富裕層はたくさんいます。



むしろ、英語は富裕層としての教養と言う面があり、富裕層こそ英語を話せる人が多いとも言えるかもしれません。



習慣についても、例えば食材はいつでも世界から調達できますし、海外にいても日本と同じような生活が可能になっています。



こんな世の中であれば、富裕層が本気を出せばすぐに日本を脱出できますし、脱出しています。



これは日本として本気で考えるべき問題であり、「出ていきたいなら出ていけ」というような単純な議論で解決するものではありません。



別に富裕層を拝み倒して崇拝する必要はありませんが、今までのような富裕層を締め上げるだけの政策からの転換が必要な時期ではないかと思います。





このように、富裕層批判はその奥に「富裕層は妬ましい」とか「金儲けは悪だ」とかいうような、負の意識が潜んでいて、どうしても個人攻撃や不満のはけ口になりやすいものです。



このような考えから抜け出すには、まずは税金の知識を少なくとも富裕層と同じくらい付け、自らの税金を考えるところから始まるのではないかと思います。



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たけよし

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