新卒で働いたのはゴルフ場であった。

 

30数年ほど前の当時、

教員採用試験の結果が出るのがたしか10月ごろだったかで、

結局、教職への道をあきらめてふと周囲を見れば、

同窓生はみな、すでに就職内定をもらっていた。

 

そこからあわてて就活を始め、自宅から通勤できるところという

条件で探して、ヒットしたのが、そのゴルフ場であった。

 

採用してくださった支配人は、私の「経理希望」を快く聞いて下さり

浮き浮きと新入社員になったのであるが

 

なんとこの支配人が直前に大病をなされてご引退。

新しく来られた支配人は、なぜか私をフロント係に任命なされた。

 

フロント係は25歳までの若い女性が10名ほどで、

内訳は正社員5名、バイトさん5名といった人員編成であった。

ちなみに、このゴルフ場では年齢を重ねると電話予約係に移動するという

暗黙の了解があった。

 

老舗のゴルフ場であったので、バイトさんといえども神戸女学院や

甲南女子大の学生さんが来られていて、それは華やかな職場であった。

 

なんで、こんな場違いなところに配属されたのかと

戸惑いながらも勤めていたが、

半年もすると、それぞれのフロント嬢にお客様のファンというか

御贔屓様が付き始めた。

 

無論、一番美人のカナさんには、ひっきりなしにお声がかかった。
「カナちゃん、今日もキレイやね」

「カナちゃん、これ、どこそこのお土産、よかったら」などなど。

 

とはいえゴルフ場なので、お客様のとなりに行ってお接待などはなく

ただカウンター越しに、わずかな時間おしゃべりするだけですが。

 

すると不思議なことに、蓼食う虫も好き好き、わたしにもファンが付いてくださった。

齢80歳になられる貿易会社の会長さんである。

この会長さんは、いつもきれいどころを侍らせてゴルフにスキーにと

駆けまわっておられるアクティブなお方であった。

 

この方が受付のたびに私を御指名なさってくださった。

(ただ、パソコンに受付ログインするだけなのですが(笑))

 

で、ある日のこと、「これ、あんたにあげまひょ」とポチ袋にをカウンター越しに

ひょいっと渡してこられた。

 

生まれて初めてのチップに、どうしたらいいのか困って、

ちょうどそこにいた課長に目で訴えかけると

「もらっといたらええやん」と言われたので、有難く頂戴することにした。

 

昼休みに開封してみると、高額紙幣が入っていたので

それをフロント&予約係のみんなで毎月貯めている「おやつ積立」に

「お客さんからいただいたので、皆でどうぞ」とお札を入れて

お昼ご飯を食べに食堂へ行った。

 

食後、フロントへ戻ると「せっちゃん、こっち、こっち」と

フロント裏の控室に連れていかれた。

 

「ほら、これ、せっちゃんの分」

目の前に巨大なフルーツパフェが置かれた。

 

見れば、そこにいる女性全員がパフェを食べている。

 

「せっちゃんのお陰でやっと念願かなったわ」と

みんなからお礼を言われてキョトンとした。

 

「おやつ積立」が何か知らずに毎月言われた額を渡していたのであるが

それは、毎月皆さんが数百円ずつ貯めていき、

金額が達成したら2階にあるレストランから特大パフェ(めちゃ高額)を

その日出勤している人数分取り寄せるというものであったらしい。

 

生クリームが苦手な私は、その巨大パフェに閉口したが

皆が喜んでくれるならよかったなと思った。