亡き父の実弟、J叔父は、今年80歳になる。

生涯独身で独居住まい、定年退職した後も、元気なうちはと

今だ現役で勤めに出ている。

 

心配なので、月に何度か私から電話をしているが、叔父はいつも多忙そうだった。

 

その叔父から珍しく、昨夜電話がかかって来た。

今住んでいるアパートを取り壊し、建て直すので出てほしいと

家主に言われたという。

 

「で、いつまでに?」と問うと、「5月末までに」と言う。

「えっ、あと一か月しかないよ。 もう次の住むところ、決まってるの?」

「いや、今から探すねん」

「建て替わったら、優先的に戻れるの?」

「わからへんねん」

「大家さんから、何か話は?」

「家出たら知らせてねって」

 

「いや、そうやなくて、立退料とかのお話は?」

「うーん、特には」

「いやいやいや、普通、家主側理由の立ち退きだと、70万円から

100万円出るのが相場だよ」

「知らんねん。敷金の半額は戻ってくるのかなあ」

 

「いやいやいやいや、それって何十万もないでしょ」

「ないなあ」

「大家さんに聞いてみたら?」

「そんなん、よう聞かんわ」

 

「じゃあ、他の住人さんに聞いてみたら?」

「もう、みんな、引っ越しておらへん」

「えっ、その話はいつ、あったの?」

「二か月ほど前かな」

「なんで、もっと早く電話してくれへんの」

「いや、迷惑かけたらあかんと思って」

 

いやいやいや、間際に言われる方が大変ですやん。

 

「あのね、戻れるとしたら、引っ越し代が2回分いるし

次のアパートの敷金礼金、家賃の差額分とかかかるし

戻られへんのやったら、それなりな所を探さなあかんでしょ。

仮住まいと、終の棲家で探しようも変わるし」

 

「あっ、そうかあ」

暢気な叔父である。

 

「で、片づけは進んでるの?」

「まだ今から。仕事が4月は休めなくて、5月は休みもらったから」

「じゃあ、5月から手伝いに行くわ」

「いや、足の踏み場がないから、まだええ」

 

以前、叔父が入院した時に鍵を預かって、必要なものを取りに入ったので

2DKの部屋に所狭しと物があふれていることは知っている。

お風呂場ももう何十年も前から倉庫になっているので

叔父は毎日、車で銭湯通いをしているほどである。

 

きちんと分類分けされているので、ゴミ屋敷ではないが

40年以上暮らしているので、それなりに物があるのである。

叔父は、その状態を私に見られるのがイヤであるらしい。

もう前に見て知ってるのだけれど(笑)

 

ともかくも一番の問題は、80歳独居で、貸してくれる部屋があるかどうかだ。

 

「最悪なかったら、うちで同居する?  ネコと同室やけど」

「いや、せっちゃん、この年まで一人できたから、同居はちょっと」

 

ほんじゃあまあ、とりあえず5月になったら、片づけ、引っ越し、部屋探し、

その他交渉事のお手伝いに行ってきます。

 

さて、どうなることになりますやら。