今から50年前のことです。
三輪車では小さくなったので、祖父が自転車を買おうと
隣町の小さな町の自転車屋に私を連れて行ってくれました。
店主さんが店の奥から赤色と青色の子供用自転車を2台出してきて
私の前に並べました。
「せつは、どっちがいい?」と祖父が私に聞きました。
私は「青色」と答えました。
「せつは、女の子だから赤がええやろ」
祖父はそう言うと、店主さんに名入れを頼んでお金を払いました。
数日後、ドロヨケに私の名前が書かれた新品の赤い自転車が届きました。
「ほら、せつ、来たで」
祖父がうれしそうに、私の顔を覗き込みます。
「ほら、おじいちゃんに、ありがとうは?」
母にうながされ、祖父にお礼を言いました。
その何日かあとのこと、幼稚園から帰ると母が
「ほら、あんたのやで」と赤いランドセルを見せてくれました。
「ええなあ、せつも、いよいよ小学生やな」と家族一同ニコニコ笑顔です。
私は内心「ああ、赤なんや」と、がっかりしていました。
とは言え、皆が喜んでいるのに、いやだとも言えず。
無表情に立ち尽くす私に、母が
「あんたは、ほんまに何買うたげても喜ばん子やね、おもろない」と言いました。
「うわあ、おじいちゃん、ありがとう!」
「わーい、ランドセル、ランドセル、うれしいな」と
飛び上がって喜ぶのを期待されていたのでしょう。
今思い返すと、ほんまに可愛げのない子で、大変申し訳ないと思っています。
色々してくれたのに、ごめんなさい。