小学校に入ると、子供用の自転車を買ってもらった。
初めは補助のコマを付けて走っていた。
しばらくすると父が、コマの片側を外した。
それでも乗れているのを見ると
「もう、ええやろ」と、もう片方のコマも取ってしまった。
すると案の定、こけるばかりで乗れなくなってしまった。
「乗れへんから、もう自転車いらん」と言うと
「ちょっとお父さん、練習したってよ」と母が父に言った。
父は近所の河川敷に私を連れて行った。
「父さんが、後ろを持ってるから、心配せんと走れ」
そう言って、自転車の荷台をがっちり支えてくれた。
「絶対、離さんといてね。絶対やで!」
「ああ、離さへん、離さへん、父さんを信じろ」
父がついて来れるように、ゆっくりと漕ぎだす。
「もっと早う走らんかいな」
そう言うので、一生面懸命に漕ぎながら、ちらり後ろを振り向くと
「まっすぐ前を見とかなあかんで」と言いながら、全速力で荷台を押してくれている。
私は安心して、力いっぱいに漕ぎだした。
しばらく走って、何の気なしに振り替えると、父がいない。
そのとたん、ガシャーンとひっくり返った。
見れば、父は遠くの方で、あさっての方を向いて煙草を吹かしている。
「もう、お父さん、持っとってくれへんから、こけたやん!」
ひざから血が出ているのを見ると、腹が立って、そう叫んだ。
「なんでえ、乗れてたやん。そやから手ェ放してんで」
ポワッと煙を吐きながら、そこに立ったまま、こちらに来るでもなく暢気に言う。
「もう乗れるやろ。父さんはもう帰んで」
そういうと、さっさと帰ってしまった。
「もう、置いていかんとってよ」
あわてて自転車にまたがり、漕いでみる。
「あ、乗れた!」
父のお陰なのかな?????
父の事は大好きだけれど、いま一つ信用ならんなと思った幼い日の出来事でありました。