2022年5月、元同僚の女性の首を締めて殺害したなどの罪に問われている男の判決公判が7月28日釧路地裁で開かれ、懲役13年の求刑に対し、懲役6年6か月の実刑判決が言い渡された。起訴状によると、帯広市の元高校教師・片桐朱璃被告(36)は、2022年5月、帯広市内の駐車場にとめた車のなかで、交際していた元同僚で北見市の高校教師・宮田麻子さん(当時47)の首を絞めて殺害し、遺体を雑木林に埋めて遺棄した罪に問われている。裁判の争点は、被害者の承諾は真意に基づくものか否かだった。

これまでの公判において、片桐被告や弁護人は「殺害に相手の同意があった」とし、殺人罪より量刑が軽い承諾殺人罪の適用を主張していた。一方、検察側は「一緒に死ぬかのように装って被害者を殺したのだから、被害者の承諾には前提として誤りがある」として、懲役13年を求刑していた。28日の判決で釧路地裁の井草健太裁判長は、弁護側の主張どおり、殺人罪については成立しないとして承諾殺人の罪を適用。懲役13年の求刑に対し、懲役6年6か月の実刑判決を言い渡した。なるほど約半分か。

 



井草裁判長は「片桐被告は被害者と一緒に死ぬつもりはなかったと認められる」とした一方、「(心中する話になってはいたものの)被害者は被告が生き残る可能性を認識していた可能性もあったが、抵抗することもなかったため、被告の死は承諾の前提としない。そのため、被害者の承諾は真意に基づく可能性がある」とした。これはつまり、男は自分を殺した後、おそらくは死なないだろうと思いつつも、それはそれで仕方がないとの認識があったということ。同時に互いの心臓を突き合うならともかく。

なぜ、被害者女性は相手が死ななくてもいいと思ったのだろうか?いろいろ考えてはみたが、どうせ自分が死ぬのはまちがいないのだから、相手が死のうが死ななかろうが、損得はないことになる。つまり、相手が死なないのに自分だけが死ぬのは割が合わないということではなかったのだろう。これが事実なら、とにかく自分だけでも死んでしまいたいということになる。自分の死後のことは自分の感知するところではない。確かにそうだが、「一緒に死のう」という状況に追い込まれた男への同情か?

◎ 検察側の立証した犯行に至る経緯を以下記す。

▼2016年 片桐被告と被害者が同じ高校で勤務開始。


▼2018年 片桐被告と被害者が不貞関係になる。


▼2022年4月 片桐被告が帯広市の高校に異動・転居。被告は被害者との不貞関係を解消したいと考え、連絡を避けるように。一方、被害者は被告に頻繁に連絡したり、いきなり被告の元に訪れるなどしていた。


▼2022年5月29日
午後4時30分ごろ 片桐被告が顧問をしている野球部の練習試合中、被害者が野球場付近に現れる。試合後、別れ話を持ちかけるが、被害者は納得せず。


▼午後9時37分ごろ 片桐被告と被害者がそれぞれの車で野球場を出発し、高校へ。被告は仕事をすると告げて校舎に向かうふりをし、被害者を残し、タクシーで帰宅。


▼5月30日 午前3時30分ごろ 片桐被告は被害者の様子を確認するため、高校へ。被害者はおらず、被告の車にあったバッグから被告の住所が書かれた書類がはみ出た状態で放置。


▼午前3時52分 片桐被告が自宅に帰ったところ、被害者が自宅駐車場にいたことから、被害者の車で帯広市郊外へ。走行中に被害者から妻と別れることを要求される。

 

        


▼午前4時32分 帯広市のパチンコ店駐車場に駐車。被害者が別れ話に納得せず、不貞関係の解消も継続もできないと考え、片桐被告が「もう死ぬしかない」と発言。被害者が頷くのを見て「自分が死ぬのであれば死ぬ気になった」と認識。被害者と共に死ぬつもりがあるように装い、被害者を殺害することを決意。


▼午前4時40分 片桐被告が被害者の首に助手席側の後部座席のシートベルトを二重に巻き付け、自分の首に運転席側の後部座席のシートベルトを二重に巻き付ける。ポケットに入っていたゴム製の手袋を自分の両手に装着。被害者の両手首をつかみ、自分の首のシートベルトを握らせて引っ張らせる。被害者の首に巻き付けたシートベルトを引っ張り、10分程度締め付ける。被害者は頸部圧迫により窒息。


▼午前4時57分 被害者の遺体を積んだ車を運転、帯広市内の駐車場に止めて帰宅。


▼午前6時15分 遺体を片桐被告の車に積み替え。


▼午前7時11分 高校に出勤し、授業や部活動をこなす。


▼午後7時17分 高校を退勤し、被害者の遺体を雑木林に運搬。スコップで穴を掘り、被害者の遺体を埋める。


▼午後8時8分 被害者の痕跡を隠滅するため、帯広市内の駐車場で、被害者のスマートフォン、車検証などを燃やす。その後、アダルトサイトを閲覧。


▼6月1日~2日 警察の事情聴取を受け自白。逮捕。

 



◎ 以下は弁護側による犯行の経緯


▼2018年 片桐被告は被害者から誘われ「魔が差して」不貞関係を持つ。


▼2019年 片桐被告は不貞関係の解消を望むようになったが、被害者は絶対に認めず、ヒステリーを起こしたり、自殺をほのめかしたりした。


▼被害者から「別れるなら全財産を渡せ」と言われ、2021年から2022年にわたり合計700万円を支払った。


▼2022年3月 片桐被告が帯広市の高校に転勤が決まる。再び、被害者に関係の解消を望むが、ヒステリーを起こし、断念。被害者に虚偽の転居先の住所を伝える。


▼4月 被害者から片桐被告のスマートフォンに666回の着信。高校の職員室に電話がかかってくることもあった。


▼5月29日 片桐被告が顧問を務める野球部の練習試合に被害者が現れる。試合後、被告は仕事をすると告げて校舎に向かうふりをし、被害者を残し、タクシーで帰宅。

 


▼5月30日午前3時30分ごろ 片桐被告が高校に向かうと、車の中にあったバッグから新型コロナの接種券がはみ出した状態であり、本当の住所が被害者に知られる。被害者から「あなたの家の前にいる。早く来た方がいい」と電話がある。


▼片桐被告が自宅に戻ると、被害者がいて「(妻と)別れないなら、赤ちゃんと妻を殺す」と言われる。


▼被害者の車で帯広市内のパチンコ店駐車場に向かう。被告が「もう死ぬしかない」と言ったところ、被害者は2回頷いたので、2人で後部座席に移動し、お互いにシートベルトを巻き付け、一緒に死のうとした。

死人に口はない。事実は生き残った加害者が知る。だからといって、彼が真実を語るとは限らない。「ぼくのいうことが真実です」といってもダメだ。人はみな自分の都合のいいようにウソをつく。それゆえに、裁判というのは真実を争うものではなく、証拠や状況から人の心を精査してゆくしかない。「真実なんてどこにもない」というのが正しい考え方であり、検察と弁護人の法廷戦術の争いということになる。魔性の女に翻弄されたしがない男の末路は獄舎の中だ。が、死ぬよりはマシかも知れない。