「煽(あお)る」とは、他人を自分の思い通りになるよう、おだてたりそそのかしたりすることを意味する表現。日常生活において「煽られた」経験の持ち主は多かろうが、「セールスマンに煽られて欲しくもないものを買わされた」というのはしばしば耳にする。「買わされた」は多少なり責任回避言葉であり「買った」ことは歴然としている。つまりこの方は、「セールスマンの思い通りになるよう、おだてられたりそそのかされたりした」ということだ。買ったのを悔いるなら上記のことが罪となる。

「おだてられていい気になった」と反省すればいいが、単に相手を責めるのは間違い。なぜなら、セールスマンはおだててすかしてそそのかすのが仕事なわけで、「どんあおだてにものりませんよ」といえばいいことだ。「そんなこといえません」と被害女性がいうので、「別にいわなくてもいいです。お世辞を真に受けなければ買うことはなかったでしょう。あなたは買わされたと被害を訴えるけど、いい気持にさせられて買っただけのことで、正しく反省しないと何度も同じことを繰り返します」。

 



大事なことは弁解ではなくて反省である。相手の悪いとこばかりが見えると、ついなんだかんだと言い訳に終始してしまう。「自分が悪かったんだ!」と思えるかどうかが成長のカギだから、そういう人は失敗から学ぶ。「学ぶ」ということは自分が変わることだから、変わらなければ学んだことにならない。ある商品を断り切れずに買った女性が、それに味を占めたセールスにカモにされ、総額で120万の支払いローンを組まされどうにもならなくなった。あげく、名義貸しまで了承してしまったのだ。

名義貸しとは、セールスマンのノルマが達成できないと泣きつかれて、購入したという名義で書類を書いてくれれば支払いは自分がするということだった。社会人になって間もない女性で、世の中にこの手の悪人がいるなど想像もしない無垢な女性は、防衛本能より良心の方が優先する。そういう事情は分からなくもないが、自分の恥とか失敗とかを他人に知られたくないいわゆる「いいこ」ちゃん。相手は名義貸しの支払いはせず、ローン請求が会社に来るようになり、彼女はパニックになってしまった。

 


そんな事情で相談を受けた。内情を聞いたところ、あまりに同一男からの購入品目の多さと請求額から自分は「その男と君はできてるのか?」と率直な質問をぶつけた。「それはないです」というが、なぜに支払い困難になるほど購入する必要があるのか理解できなかった。その後にいろいろ話したりで分かったことだが、彼女は「NO」がいえない典型的なタイプだった。そういう人間は、絶対にセールスと対峙してはダメだ。厳寒から家に入れない、上がらせないというのが大原則なのは以下の理由。

彼らは物を売るプロであって、相手の性格が弱いと見るやたたみかけてがんじがらめにし、断れないように持っていく。そういう状況のなかで「NO」をいうのがどれほど至難であるか?ましてや相手は「NO」がいえないように、いうのが気まずくあるように持っていく。それこそが悪辣営業の奥義である。真に優秀なセールスマンはそういうやり方はしない。あらゆる説得話術で商品也を心から喜んでもらうことを目指すが、それはセールスマンの人柄の良さに関連する。こういう人は顧客に愛される。

 

     

さらに上級セールスマンは「説得」ではなく、相手を「納得」させる技術を持っている。「説得」は「納得」と違い、説得は強引さ、「納得」は顧客の自発的要素ということ。納得させる話術を持つセールスマンの引き出しや人柄は素晴らしいものがある。これは女性を口説く話術と同じといってもいいくらいに類似している。強引よりも自発的というところを目指す男は「強引はつまらない」という自負と向上心をもっている。女性を口説くのに「向上心」というのも変だが、奥義とはそういうものだ。

そんな徳のあるセールスマンなどはほんの一握りであって、自分の成績と歩合のためなら平気で人を騙すのがセールスマンの本領だろう。生命保険のセールス・レディが「あなたのため」「奥さんのため」「子どものため」などとセールス用語を連発するので、「そんな社内研修で教わったことを実践に使えると思ってるんか?あっさり自分のためですという方が正直だろが」と教えてやった。人は人のためにではなく、自分のためだから一生懸命になるのだから、とってつけたような言葉は通用しない。

通用する人間もいるだろうから「殺し文句」となる。嘘八百を並べる詐欺師まがいのセールマンの殺し文句は「ボクがウソをつく人間に見えますか?」が常套句である。「見える見える。今言ったことは全部ウソだろ?」とからかったことがある。で、「ウソでないことをどうやって証明するんだ?」というと「ぼくを信用してください」というので「できないといってるだろう?人間関係もできてない相手を信用し、信頼するほどオレはマヌケじゃないからな」とここまでいわれたら退散するだろ。

「なぜ電話の向こうの見えない相手を信用するのか?」「人間関係も樹立していない相手をなぜに信頼するのか?」と素朴な疑問であるが、それが道理というものだ。セールスマンに「家の敷居をまたがせてはならない」という大原則がある。これをわかりやすくいうなら、他人を家のなかに入れるだけで、人間関係の一歩が自分とセールスの間で「成り立つ」ことになる。彼らが何より求めてやまぬは人間関係を作ること。スーパーで試食販売のマネキンさんが「買わなくてもいいから食べて」という。

 

 

試食品を食べただけで、売り手と買い手という人間関係ができ上っている。となると「断るのは悪い」ということになる。マネキンの狙いはそこにある。もう一つセールスマンの常套句に「買わなくてもいいので話だけ聞いてください」というのがある。これも人間関係を作るためだから、一通り話を聞いた後に「買わなくてもいいといったので帰るわ」といえる人はいいが、それをいえなくするのがセールスの技術ということだ。日本人はなぜか「NO」をいうのが悪いと思っているオヒトヨシが多い。

「NO」をいうことが悪いではなく「いらないものをいらない」といえない自分が悪いのだと頭を切り替えること。相手に良い人だと思われたいと見透かされた人間は、セールスの褒め殺しに気分を良くする。それで気づいたときは買っていたとなる。こんなことをいう主婦は珍しくない。「自分でも何でこんなモノを買ったのか分からないんです」。これにはちゃんと理由があって、無意識に買ってしまうほどお世辞でいい気分にされたと。「豚も褒めれば木に登る」と、叩き込まれている彼らである。