でも 

先生は来なかった

私の横を通ることはなかった



柱の影で ハラハラしながら

その時 を待っていた 私



     
     まさか 通りすぎちゃった わけないよね?
     
     違う… 先生のベビーパウダーの残り香を感じない

     
     まさか 幻だったの?

     違う… あの足音は 今でも耳に残っている





恐る恐る 覗いてみる


廊下には 誰も いない

先生の 姿は ない





     消えちゃった……

     本当に 幻 だったのかな……






酸素を送り込む 人工呼吸器や 

心電図モニターの単調な音が

病室から 聴こえて来る




それらの音に混じって

コツっコツっ と歩く私の足音が

誰も通らない廊下に 響く




長い廊下を ゆっくりと歩き終わるまで

足音が重なる事はなかった



足音は たった一つだけ

私の足音だけ―