「待ったじゃねぇかよ。おせーよ。」
 

   
 き、聴かれた?



声のする後ろを振り返る


 
黒の長袖カットソー

グレーの細身のパンツ

焦茶のライダージャケット

の姿が目に映る




「仕事してたんです。」



白衣姿からは想像が出来ない程

の変わり様



不意に目の前が暗くなる

と同時に、両耳を冷たい指先でなぞられる



あっ


音にならない声が出る私



「いけそうだな なかなか可愛いよ」


    
  へ、何言ったの?



なぞられた耳たぶから全身に

微かな痺れが巡る




「可愛いよ ピアス。俺が決めた場所だから」



     あ…… さようですか



私が無言で俯いていると




「だいぶ待ったしなぁ 腹減ったなぁ」



「飴あります 食べますか?」




ポケットから、カラフルな包装紙のキャンディを

3個取り出す


元々3個しから持ってなかったのだけど




「飴ねぇ ガキじゃねぇんだけど」



じゃぁ と言って私は飴をポケットへしまおうとしたら



「要らないなんて言ってねぇよ」



と言いながら 3個全て鷲掴みした



     素直じゃないなぁ



「あまり耳たぶ 赤くなってないので良かったです」



「まぁな ちょっと腫れてるけど そのうち引くさ…って
 
ヤバいな ホント行かないと」




「すみませんでした 遅れちゃって
 
もう大丈夫です」




「遅れたお詫び、忘れんな……」



そう言いながら エレベーターに乗り込んで

行ってしまった




     お詫びって?
    
 まぁ いいか 飴あげたしね







事務室まで帰る途中で、私の前にピアスを開けて貰った

同僚に会った




「ねぇ、ピアス開けた後 先生に見せた?」



「見せてないよ 
 
てか あの先生って何か話しにくくて暗くて苦手でさ
 
タダで開けてくれたから良かったよ」



やっぱり 先生ってそう映るよね




でも 私だけ なの?

先生 私だけなの?