翌日。
ホテルで朝食バイキング。





当時、私はまだスマホを持っていなかったので、主人が朝食の写メを長女に送っていた。






長女は顔はそうでもないが、性格や考え方は何から何まで主人にそっくり。
そのせいだろうか。
同族嫌悪みたいなものなのか、これまで長女と主人は馬が合わなかった。
よく親子喧嘩もした。







それでも、父親の病気を知ってからはあの子はとても優しかった。
そして強かった。
夏休みだったのに、私のことを心配してなるべく家にいてくれた。
彼氏もいるし、遊びたい盛りの年齢なのに……。
お金のことを心配して、学校に奨学金の相談までしていたらしい。







父親のこと、私のこと、妹達のこと……19歳の女の子が背負いきれないほどのものを背負ってくれた。
あの時も今も、長女には感謝しかない。







これが普通の夫婦旅行だったら、どんなに良かっただろう……。
そんな思いに押しつぶされそうだった。








国立がんセンターは築地の近く。
前から築地に行ってみたいと言っていた主人。
病院の予約は午後からだったので、少し築地をブラブラと歩いた。







この時、数年後に築地がなくなるなんて思ってもいなかったね。
びっくりしてるよね……きっと。



   



でも、体力が落ちているのでほんの少し歩いただけで主人は辛くなってしまった。
他に行くところもないので、予約時間には早かったけど病院に向かった。








今日はもう、ほんとに何も期待していなかった。
同じことを言われることはわかっていた。
予想通りだった。
事務的に告げられる内容。
昨日の有明病院の先生のように、心のある話すらしてくれなかった。
私は「昨日でやめておけば良かった」と後悔した。







診察を終えて、地元の主治医の先生に電話。
主人が自分でかけた。








結果は同じでした。
そちらの病院で治療をお願いします。








同じ治療をするなら、わざわざ東京の病院に入院するのは大変。
私も毎日、面会には行かれない。
それなら地元の病院のほうがいいに決まっている。






帰りも電車で帰った。
これが……この日が……夫婦で県外に出たのも、
外泊したのも、
電車に乗ったのも…………
全てが最後だった。
この時はまだ、知らなかったけれど……。






これから、「最後」がどんどん増えていく。
その時は最後だと知らずに……。






気持ちはどんよりしていたが、家に帰り子供達といたら少し元気が出てきた。
その日は金曜日。
土日は家で過ごし、月曜日に再入院することになった。







やはり家で過ごせるのは嬉しいよね。
病院なんて嫌だよね。
3日後にまたあそこにあなたを送っていくのかと思うと、ほんとに胸がしめつけられるよ。







その夜も一緒に寝たけれど、
寝返りを打つたびに、細胞診で針を刺したおなかが痛むらしくうなり声をあげる。
私はその都度、心配で飛び起きてしまう。









いつも私が心配される側だったのに……。
あの元気だったあなたにはもう会えないの?
私達が心から笑い合える日は、もう訪れないの?








うなり声をあげながら寝返りを打つ彼の隣りで、





私はまた涙を流した……。