令和デカダンス(歌舞伎町物語)
第一場:虚飾のシャンパンタワー
店内には爆音の音楽が鳴り響き、カリスマホストの蓮(れん)と翔(しょう)が、それぞれの太客を前にして不敵な笑みを浮かべている。
「蓮くんに最高の景色を見せる」と叫び、限界まで膨らんだクレジットカードを差し出すカレン。
「翔、私を裏切ったら殺すからね」と、虚ろな目で何百万円ものシャンパンタワーを注文する詩織。
蓮と翔は、彼女たちの人生が削れていく音を心地よいBGMのように聴きながら、極上の接客スマイルでグラスを傾ける。
その狂乱のすぐ隣で、ナンバー3のハルだけは、一度も本物の笑みを見せることなく、ただ淡々と、ロボットのように次の酒を準備している。
第二場:ネオンの裏の綻び
扉一枚隔てた店外の路地裏には、きらびやかな世界の犠牲者たちがうずくまっている。
翔の妻である紗栄は、夫の放蕩が原因でヤミ金からの激しい取り立てに追われ、爪を噛みながら震えている。
その横を、精神を病み、自傷行為の痕を隠そうともしないスカウトマンのレンが、虚ろな声で「お姉さん、稼げる仕事あるよ」と声をかけながら彷徨う。
そこへ、現代の若者の生活実態を調査しに来た公務員の誠司と、その友人であるタカ、ユウの3人が通りかかる。
「おい、これはあんまりじゃないか」と、タカとユウは路地裏の惨状に憤り、店内の狂気を「人間性の崩壊だ」と激しく批判する。
第三場:数字が消えたあとの荒野
誠司たち生真面目な大人たちが、ホストたちに向かって「こんな歪んだ関係に、本当の救いなどない」と正論をぶつける。
蓮と翔は、その言葉を「お堅い公務員様の退屈な説教」と鼻で笑い、カレンと詩織もまた「私たちの邪魔をしないで」と彼らを拒絶する。
しかし、突如としてカレンのカードの決済エラーが告げられ、詩織の財布も底を突いた瞬間、店内の魔法は無残に解ける。
蓮と翔の顔から瞬時に営業スマイルが消え去り、カレンと詩織はただの「負債を抱えた女」へと突き落とされる。
騒然とする店内で、誠司たちに向き直ったハルが、感情の消え失せた声で静かに言い放つ。
「正論なんて、この街のデカダンスの前には1円の価値もありませんよ。さあ、これが僕たちの日常です」
「関連フレーズ」
人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。
(太宰治『ヴィヨンの妻』より)
It does not matter if we are monsters. We only need to stay alive.
「あとがき」
誰もが「正しい生き方」をスマートフォンで検索し、安心を買おうとする令和の時代。
しかし、その清潔な社会の裏側にある歌舞伎町という街では、剥き出しの欲望と冷徹な数字が人間を咀嚼し続けている。
本作は、かつて太宰治が描いた「破滅の中にしか見出せない人間の真実」を、現代のホストクラブという虚飾の舞台に置き換えて構成した。
私たちが本当に恐れるべきは、彼らの退廃ではなく、それをガラス越しのエンターテインメントとして消費している、自分自身の無関心なのかもしれない。
もし太宰治がこの歌舞伎町の狂乱を目の当たりにしたなら、きっとこう呟くのではないだろうか。
「どうせ死ぬと決まった人生なら、せめて派手に狂ってみせるのが、せめてもの誠実というものではないか」と。
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