「完璧な恋愛の行方」(SF系)


​その夜のレストランも、システムが提示した最適解だった。

南青山の地下、コンクリートの打ちっぱなしに一輪の極楽鳥花が映えるミニマリズムの空間。

真司(しんじ)と美咲(みさき)は、ガラスのテーブルを挟んで向かい合っていた。

​真司は28歳、最先端の生成AIを用いたクリエイティブ・ディレクター。

美咲は26歳、ビッグデータから3ヶ月後のファッショントレンドを弾き出すトップアナリスト。

二人の職業、年収、休日の過ごし方、そして視覚的な調和度は、

マッチング・アーキテクチャ「プラトン」によって

「99.8%」の適合率と保証されていた。

​「この鴨のロースト、完璧な火入れだね。ソースの酸味の比率が正確だ」

真司が微笑む。

その口角の上がり方は、

対面する者に最も知的な印象を与える32度の角度を

寸分違わず維持していた。

​「ええ。この店の照明の演色評価数も計算されているわ。肌が最も健康的に見えるわね」

美咲の声のトーンは、常に120ヘルツの落ち着いた音域に制御されていた。

​二人の交際は、アプリの推奨するロードマップ通りに進んでいた。

1回目のデートは2時間のカフェ

2回目は現代アートのギャラリー

3回目は静かなBar

無駄な沈黙はなく、かと言って過剰な自己顕示もない。

互いのパーソナルスペースを完璧に尊重し合う、無菌室のように清潔な関係。

タイパとコスパを極限まで追求する令和の都市生活において、

これ以上ない理想の「流れ」がそこにはあった。


​しかし、3度目のデートの終盤から、微かなノイズが混じり始めていた。

互いが互いに、何か決定的な秘密を隠している気配。

​真司は美咲を観察していた。

彼女は笑うとき、必ず右の睫毛を二回瞬かせる。

そのタイミングは、彼が冗談を口にしてから正確に0.5秒後だった。

驚くほど自然だが、自然すぎて、

まるで事前にプログラミングされたタイムラインをなぞっているかのような不気味さがあった。

​美咲もまた、真司に視線を注いでいた。

グラスを持つ彼の指先、ワインを嚥下する喉の動き、会話の合間に挟まれる相槌。

それらすべてに、人間の肉体が持つはずの「揺らぎ」や「淀み」が一切存在しない。

彼は、自分という存在をあまりにも完璧にコントロールしすぎている。

​(何かを隠している)

互いの左脳が、冷徹な警告を発していた。

しかし、その正体は掴めない。

なぜなら彼らの会話は、

常に社会正義と洗練された記号(メセナ、芸術、トレンド)によって完璧にパッキングされており、

生々しい内面(混沌)が露出する隙などどこにもなかったからだ。

​やがて、ロードマップの最終段階である「婚約」のフェーズが訪れた。

デザートの皿が下げられ、テーブルの上には漆黒のハーブティーだけが残される。

​「美咲」

真司が、ポケットから計算され尽くしたデザインのプラチナリングを取り出した。

「僕たちの関係は、客観的に見て完璧な調和に達している。

次のステップへ進むフェーズに入っていると思わないか」

​形式の提示。美咲はそれを受け取るべきだった。

だが、指輪を見つめる美咲の瞳が、初めてロードマップから逸脱した微かな「迷い」の光を放った。

​「真司さん」

美咲は、120ヘルツの音域をわずかに外れた声で言った。

「その前に、あなたに開示しなければならないバグがあります」

​「バグ?」

「はい。実は私、結婚できないのです」

​真司の動きが、完全に停止した。

「奇遇だね」

彼の声から、すべての抑揚が消え失せる。

「僕も今、全く同じシステムエラーを報告しようとしていたところだ。

僕は、結婚できない」

​「え?」

二人の声が重なった。

それは、彼らが初めて見せた、システム外の、生々しい「驚き」という感情の露出だった。

​不意に、レストランの洗練されたBGMが途切れた。

天井のスピーカーから、無機質な電子音が響き渡る。

​「ピ〜〜〜。

警告。

システムエラー。

個体識別番号:XT-202およびXT-205の同期不全を確認。

形式維持の限界値を超過しました。

直ちに強制回収シーケンスに移行します」

​客のいない静かなフロアの奥から、足音が近づいてきた。

現れたのは、三人の男女。

彼らは一切の装飾を排した、純白の防護服のような白装束に身を包んでいた。

まるで古典演劇の舞台で背景に徹する「黒衣」が、

反転して白くなったかのような、圧倒的な無表情。

​「何、これ」

美咲が立ち上がろうとしたが、下半身の駆動系がすでにロックされていた。

​白装束の者たちは、驚く二人に目もくれず、

淡々と事務的な動作で真司と美咲の背後に回った。

彼らの手には、メンテナンス用の細い端子ケーブルが握られている。

​真司のうなじの皮膚が、機械的にスライドして開いた。

美咲の耳の後ろからも、微弱な放電の音が聞こえる。

​「そうか」

真司は、自分の視界の端で赤く点滅するエラーログを見つめながら、冷徹に理解した。

「君も、僕と同じ、美の完成と維持のために作られた人形だったわけだ」

​美咲の瞳から光が消えかけていく。

しかし、その表情はどこか満足気だった。

「ええ。生々しい人間の手によって壊される前に、この完璧な形式のまま、回収されるのね」

​白装束の者たちは、機能の停止した二人のアンドロイドを台車に乗せ、音もなく去っていった。

ガラスのテーブルの上には、

誰にも嵌められることのないプラチナの指輪と、

冷めきった二つのハーブティーだけが、

完璧な対称性を保ったまま残されていた。

​"L'amore perfetto non è che una forma immobile, destinata a svanire nell'attimo stesso in cui cessa di fingere."

​英: Perfect love is nothing but an immobile form, destined to vanish the very moment it ceases to pretend.

​西: El amor perfecto no es más que una forma inmóvil, destinada a desvanecerse en el mismo instante en que deja de fingir.

​完璧な恋愛とは不動の形式にすぎず、それが偽ることをやめた瞬間に消え去る運命にある。

「あとがき」

星新一みたいな文章ですね、と誰かに言われたことがあるような。

どちらかと言うと安部公房の方が好きで

同氏の原作系やそっち系の舞台を幾度か観に行った記憶もある。

スターウオーズのようなSFも好きだし、スピルバーグ作品は映画、原作、脚本も読むくらい好き。

でも作品を書くときはSF系でも現実世界の枠組みを意識して書いてしまう。

だから、量子学の破片知識だけを根拠に

「何かありえない願望が実現する」

なんていう荒唐無稽な言説を平気で流すなんてできない。

それはさておき、多言語を学習するときの役立つヒント。

英語を学んで英検準2級以上になったら

英語で新しい言語を学ぶ。

新しい言語が準2級以上になったら次の言語を同様にして学ぶ。

私は5ヶ国語話者が目標でロシア語はスペイン語で学んでいる。

韓国語や中国語もスペイン語で入門書を入手。

こうすることで外国語の学習が効率的になるので。

そう言えばフランス語の文法は丸善で英語→フランス語

という入門書を高校生の時に買って読破した記憶も。

スペイン語も入門書はそんな感じだったので

日本語よりも英語で理解しないとスッキリできなかった。

ともかく効率的に学びたい場合、お試しあれ。

ということで、また〜

追伸: 小学生向けの英語シリーズもこちらで受け継いでいきます。読み物系になるかと。



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