「一万年前: 令和日本が原始時代に飛ばされる(2)」
第2章:写本師たちの夜
転送から40年。
かつて「日本」と呼ばれた国は、静まり返った緑の列島へと完全に還っていた。
生き残った現代人は、
肥沃な平野部や佐渡島などの隔離地帯に小さなコミュニティ(集落)を築き、
かろうじて息を繋いでいた。
1. 液晶の死
「頼む、あと5分だけ持ってくれ!」
佐渡島、かつて「聖堂」と呼ばれた木造の砦。
40歳のユキは、薄暗い部屋で、激しく明滅する液晶画面に齧りついていた。
画面に映っているのは、
21世紀の「基礎化学・抗生物質製造マニュアル」のPDFデータだ。
El fin de la era digital se acercaba.
(デジタル時代の終わりが近づいていた)
ユキは、あの「転送の日」の直後にこの荒野で生まれた、
最初の新人類世代だった。
彼女自身は、21世紀の東京も、動く電車も、コンビニも知らない。
幼い頃から、老いゆく先祖たちに
「かつての文明」の話を聞かされ、
その遺産を文字通り死守する役割を叩き込まれて育ったのだ。
ノートPCのバッテリーはとうに膨張して破棄され、
今や劣化した太陽光パネルから直接引いた不安定な電流だけで、
奇跡的に生き残った最後の1台を動かしている。
バックライトが寿命を迎え、画面が激しくブレる。
ユキの手元には、植物の汁から作った墨と、粗末な再生紙。
彼女の指は、猛烈な勢いで画面の文字を紙に書き写していた。
パツン。
乾いた音と共に、画面が完全に黒没した。二度と、光が戻ることはなかった。
部屋に残されたのは、静寂と、半分だけ書き写された数式、
回路上で寿命を迎えたコンデンサの焦げた匂いだけだった。
2. 「液晶を知る世代」の黄昏
集落の広場では、1本の巨大な大樹を囲んで、子供たちが集まっていた。
教壇に立つのは、白髪の老人。かつて2026年に大学生だった、この集落の長だ。
Non dobbiamo dimenticare il passato.
(私たちは過去を忘れてはならない)
老人は静かに語りかける。
「先生、本当に空を飛ぶ鉄の鳥がいたの?」
「ああ、いたとも。東京という街にはね、
地面の下にも電車という鉄の蛇が走っていて、
ボタンを一つ押すだけで、
世界中の裏側の人と顔を見て話せたんだ」
子供たちは目を輝かせて聞いているが、その目は「桃太郎」の昔話を聞くそれと完全に同じだった。
彼らにとって、目の前にあるのは広大な原生林と、弓矢での鹿狩り、
そして手作業での稲作という現実だけだ。
老人たちの肉体が寿命を迎えるごとに、
21世紀の「手触り」を持った人間がこの世界から消えていく。
今や知識は、体験ではなく、純粋な「記憶と信仰」の領域に移りつつあった。
3. 写本師(スクリプター)の誕生
ユキは、真っ暗になったPCの画面に、自分の歪んだ顔が映っているのを見つめた。
絶望している暇はない。
彼女は立ち上がり、背後の棚に並ぶ数百冊の「手書きの束」を見た。
40年間、生き残った技術者や教師たちが、
記憶と壊れゆく端末から血を吐く思いで書き写し続けた、新しい時代の「聖書」。
Knowledge is our only hope.(知識こそが私たちの唯一の希望だ。)
そこには、二次電池の作り方、
三権分立の意義、
ペニシリンの培養法、
水道管の結合方法が、
21世紀の日本語でびっしりと書き込まれている。
「私たちの世代で、これを神話にしてはいけない」
ユキは新しい紙を広げ、炭の筆を握った。
端末(デバイス)という魔法の箱はすべて死んだ。
ここからは、人間の肉体だけが、文明のバトンを運ぶ唯一の乗り物になる。
(解説)
デジタルからアナログへの反転
この章の残酷さは、人類が「前進」ではなく「後退」にすべての命を懸けている点にあります。
現代の私たちは技術の進歩を信じていますが、
この40年目の世界では、昨日まで動いていた機械が今日壊れ、
二度と直せないという「文明の引き算」が日常です。
21世紀の知識を完全に維持したまま、
生活水準だけが中世以下にまで強制的に引き下げられる精神的負荷が、
生存者たちを襲います。
「記号としての科学」
ユキたち新人類にとって、写本に書かれた「半導体」や「インターネット」の文字は、
一度も実物を見たことがない、抽象的な概念に過ぎません。
理論は完璧に理解しているのに、
それを具現化する「旋盤」も「高炉」もないため、
彼らは「世界の仕組みを知り尽くした原始人」として生きることを強いられます。
この知識と現実のギャップが、次章の爆発的な技術復興へのエネルギーとなります。
語彙&表現
英語
knowledge 知識
hope 希望
only 唯一の
スペイン語
el fin 終わり
la era digital デジタル時代
se acercaba 近づいていた
イタリア語
non dobbiamo 私たちは〜してはならない
dimenticare 忘れる
il passato 過去
「あとがき」
こうして一万年後から令和に向けての復興は途方もない針の山々です。
しかし、大災害後の日本も他人事として見過ごせない教訓とならないとも限りません。
AIによる甘々な超ラッキーな大災害後のシミュレーションでも首都圏の復興は不可能と出ています。
復興出来たとしても地方の多大なる犠牲を伴うであろうと。
そして地方は犠牲に耐えきれなくなって独自の生き残りを模索を始めると。
その結果、首都圏は富裕層だけが住める城塞都市となるであろうと。
私は常々富裕層以外は首都圏からできるだけ離れて暮らした方がいいと言うのもそういう理由からです。
皆様、若者はできれば農村に移住してください。
それができなければ北海道や地方で農産地が近い地域。
これから首都圏にマンションや住宅を買ったら詰んじゃいますよ!
関東なら高崎、東北なら仙台、中部なら長野、関西では奈良、兵庫、瀬戸内なら岡山、九州は佐賀などなど。
でも私の予言が外れることを願っております。
では〜
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