いけない恋 君に、サヨナラ1 | WDC ダーツですょ(・∀・)

いけない恋 君に、サヨナラ1

「あなたを、愛している」

痛みは、消えることはない。
涙も、溢れるばかり。
いつからこんなに、泣き虫になったのだろう?
きっと、君に会ってからだね――――


「落としましたよ」
「ありがとうございます」

初めての出会いは、マフラー。
君は、黒のマフラーを落とした。
私は、それを拾った。
ただ、それだけだった。


あれから一ヶ月くらい経って。
私の家にやってきたのが、君だった。

「ママ、あたしの彼氏。もう付き合って、4年なんだよ?」

息が止まった。
だって、まさか。
そんなことありえない。
そう、思いたかった。
だけど、現実は塗り替えることは出来ない。
小説は、何処までだって作り変えられる。
だけど、現実は・・・うまくいかないことばかりだ。


「ママはね、小説家なのよ。ほら、『こんなに近くにいるのに、抱しめられない』っていう小説。名前くらいは聞いたことあるでしょ? あれ、ママの初恋の人を書いたんだって。ね?」
「えぇ、そうなの。昔から、恋愛不器用でね。告白する勇気さえ、なかったのよ」
「へぇ、そうなんですか」

君は、笑った。綺麗に整った顔で、まるで天使みたいだった。

「ママも、いい人いないの? 今度4人でWデートしようよ!」
「今の恋人は、リズよ」
「ママ!リズは、犬でメスでしょ!」
「いいじゃないの。レズもあるわ」
「そういうことじゃない!もう行こ、聖司!」

娘の夏奈が、嬉しそうに笑う。
彼女は恋愛器用だ。振られたことなんて、聞いたこともない。
いつだって、振ったのよという話。
それはそれでいいことだ。
私も、娘がモテるのは鼻が高いわ。


「晩酌、お好きなんですって?」

行き着けの図書館に現れた君。
笑っていた。
天使の微笑みで。

「えぇ。お酒飲んでも、酔えないのよ」

綺麗すぎて、私は見惚れる。
だけど、恋してはいけない人。
娘の、大切な人。

「今度、お酒のおいしい店、連れてって下さい」
「私は、知らないのよ。そういう洒落た店」
「いいですよ、あなたの選んだお店なら、どこでも」
「・・・うまいわね、少年」
「慣れてますから、接客には」
「なに、私はホストに貢ぐ女?」
「まさか。あなたは、女王様が似合いますよ」
「私、SMプレイは苦手」

不思議。
君は退屈な顔をしない。
どうして?
こんなにオバサンなのに。
もう、45歳のオバサン相手に、何が楽しいというの?


「寒いですね」
「そうね」

図書館を出た。
冷たい12月の空気が、二人を包み込む。
自然に、つながれる手。
私たち、生まれる前は恋人だったのかもしれないね。
だって、一緒にいて、凄く落ち着くもの。


「ママ!見てみて、綺麗な指輪でしょー?」
「あら、彼氏から?」
「そーよ。あたし達、結婚の話も出てるのよ。ママ、いいでしょ?」
「大丈夫よ。あんなにかっこいい男の子なら、ママもみんなに自慢しちゃうわ」

嬉しそうな顔。
そっか。
結婚するのね、あなた達。
良かったわね、聖司くん。

「ママも、早くいい人見つけなって!担当の井原さんとか、結構いい感じじゃん!」
「・・・あのね、彼はまだ25よ。20も違うオバサンを、好きになるとでも思って?」
「知らないの? ママ、まだまだ綺麗だってこと」

無邪気に笑う。そんな顔、しないで。
だって私、あなたの彼に惹かれはじめてるのよ?
そんな顔されたら、私、どうすればいいの・・・?

「大丈夫!ママなら、私と同い年の子とも結婚できるよ!」
「犯罪でしょう」

そうね、犯罪。
だけど、この気持ちはもう抑えられない。


「今日は、あなたを抱きに」
「・・・遅い、聖司くん」

娘の結婚式の段取りで、最近忙しくて、会えなかった。
だから、嬉しい。
君から、会いに来てくれるの。
「やっと、あなたを抱ける」
「いいの? 娘と結婚するっていうのに」
「・・・あなたの傍にいれるのなら、どんな手段も使うさ」

そう言った君が、突然怖くなった。
どうして、そんなことが言えるのだろう?
本当に、私を好き?
それとも、彼女の母親に手を出して、ただ楽しんでるだけ?
君の本当の心は、分からない。
だって、いつも笑ってるから。

傍にいて。
そんなこと、言えない。
だって君は、娘のもの。


「どうして」

君は問う。
私も問いたい。
何故君が、娘の夫なのか。

「小説家はね、一人を好むのよ」

そんなの嘘だ。
一人なんて、凄く寂しい。
だけど、これ以上近くにいたら、娘の幸せを壊しちゃうわ。

「結婚する前からずっと、あなたが好きだったんだ」
「ずっと? そんなの嘘だわ。子どもは、早く帰りなさい」

君は、子ども扱いされるのが大嫌いだったね。
だけど、今日はするよ。
だって、そうしないと。
君は消えてはくれない。


「離さない、由利奈」

初めて、君は私を呼び捨てた。ありがと。
それだけで、嬉しいよ? さん付けなんて、私、大嫌いだったもの。

「やめて、気持ち悪い。もう、さよならだよ」

知ってたよ。
君が、私のこと好きだって。大好きだって。
私を見る目が、優しいもの。
いつだって、私の身を案じてくれた。
だけど、母親は最後まで女になりきれないの。

偽善だけど、それでも娘を愛してるから。
娘の愛した人との幸せを、壊したくなかったの。

大丈夫。私、結構強いのよ?
一人でだって、生きていけるわ?
女は、強いんだから。
母親は、強いんだから――――

君と娘に別れを告げて、もう一年が過ぎた。
新しい本も出た。
なんとか、話題作になってくれた。

「いやぁ、先生。さすがですねぇ!」

担当の井原くんは、嬉しそう。
私も嬉しい。
でも、この年になると心の底から嬉しいなんて感情。
失われてしまうものね・・・

「次回作も、期待してますよ、先生!」
「井原くん、彼女はいないの」
「え、と、突然な、なんですか!」

しどろもどろな担当者。
そんなに、慌てなくてもいいのに。
この様子じゃ、彼女いないのね。
結構可愛い顔してるのに。
って、オバサンだな、私。

「だって、いっつも原稿原稿って言ってるもの。彼女もいなくて、つまんなそー」
「し、仕方ないじゃないですか!俺は、仕事一筋でいくんです!」
「・・・そ、つまんない男」

でも、誠実だよね。
なんて、図に乗りそうだから言わない。

「せ、先生こそ、どうなんですか」
「私はいいのよ、もう恋愛は飽きたわ」

恋愛は、飽きた。
今でも思い出すのは、君に抱かれたあの夜。
初めて手をつないだ、12月。
君に出会った、あの瞬間。
忘れられないの。他の人に、乗り換えられない。

「お、俺じゃあダメですか」
「・・・私、つまんない男は嫌い」

でも、遊び相手になって、井原くん。
私、体が寂しいの。