ソドー鉄道には本線から伸びる支線がいくつもある。トーマス達が走るファーカー線にエドワード達が走るウェルズワース線。それにダック達が走るアールズバーグ線。他にも工場が多くある支線や他の鉄道と接続している支線もある。支線には港や採石場、工場が存在して鉄道にとって大切なもので、とても忙しい場所だ。
 それぞれの支線で働く機関車達は自分の支線の事を大事に思い、そこで働く事を誇りにしていた。特にトーマスやダックは自分の名前が支線につけられている事に鼻高々だった。

 支線には彼らの名前が付けられているが、他の機関車達も彼らの支線で働いていた。ダックの支線は通称、「小西部鉄道」と呼ばれておりダックの他にスコットランド出身の双子の機関車であるドナルドとダグラス、それから同じ大西部鉄道出身のオリバー、トード、イザベルとダルシー、アリスとミラベルが働いている。
 ダック以外の機関車や客車達は皆スクラップの危機から逃れてこの鉄道にやって来て、ダックの支線で働いている。似たような過去を経験している彼らは境遇からお互いの事を分かり合っており、とても仲が良く、自分達の事を救ってくれたトップハム・ハット卿の為にも役に立つ機関車であろうと頑張っていた。
 ダックはそんな彼らを自分の支線の一員として大切にしていた。だが、自分が誇りに思っている支線の一員だからこそ彼らには常にキチンとした機関車であってほしいと考えていた。そこで出てくるのが彼お得意の「大西部鉄道流」だ。
 これには多くの機関車がうんざりさせられてきたが、毎日彼と顔を合わせるドナルドとダグラスもオリバーもすぐにうんざりした。
「やあ、やけに疲れてるじゃないか。」

 ティッドマス機関庫でドナルドとダグラスとオリバーが休んでいると、近くの倉庫に貨車を持ってきたトーマスが声をかけてきた。

「ダックさ。」

 オリバーがげんなりした様子で言う。
「また、いつもの大西部鉄道流だろう?俺達も奴の大西部鉄道流は嫌になる程聞かされたものさ。」

 通りかかったゴードンが口を挟んだ。

「同じ鉄道出身の僕にですら大西部鉄道流についてうるさく言ってくるんだ。何とかしてくれよ。僕だって大西部鉄道に誇りはあるけど、そこまで煩くないよ。」
「大西部鉄道流のやり方を推奨してきますが、我々はスコットランド出身なのですぞ。」

「ええ、我々にも我々なりのやり方があります。スコットランド流と言うやり方がね。」

 ドナルドとダグラスもダックの五月蠅さに腹を立てているようだった。
「また彼の寝床に卵が入った巣箱を忍ばせてやったらどうだい?」

 トーマスはそう言ってクスクス笑うと、仕事に戻っていった。

 ある朝早く、オリバーはアールズバーグ・ウェストでカーク・ローナンの港に行く本線の機関車に砂利の貨車を渡す準備をしていた。

「おはようございますオリバーさん。朝早くから忙しそうですね。」

 近くの駅で始発の旅客列車を牽く準備をしていたちんまり鉄道のレックスが欠伸をして、声をかけてきた。
「そうなんだ、あと数分で本線の機関車が列車を受け取りに来るから急がないと。」

 オリバーは砂利落としの下まで貨車を押して行くと砂利が吐き出されて舞い散る砂埃に咳き込みながら答えた。
「それにしても誰がこんなに沢山の貨車を1度に纏めてカーク・ローナン港まで運ぶんだろう。10台以上は繋がってるぜ。」

 オリバーの貨車に砂利を積み込んでいるマイクが疑問に思った事を口にすると、遠くから嫌な警笛が聞こえてきた。
「嘘だろ、何で彼が。」

「嫌だなあ、何で朝から彼と顔を合わせないといけないんだ。」

 レックスとオリバーが顔をしかめた。砂利落としの上から遠くを見ていたマイクもやって来た機関車を見て嫌そうに言った。

「そーら、やって来たぞ。」

 やって来たのはあの真っ黒で意地悪なディーゼルだった。
「どうして君がここに?何しに来た。何が欲しいんだ。」

 オリバーが警戒心をむき出しにして尋ねた。

 レックスとマイクも歓迎していない様子だ。ちんまり鉄道の機関車ですら、彼の悪い噂は聞かされている。一方のディーゼルは警戒心をあらわにする支線の機関車達を見て余裕そうにせせら笑った。
「何しに来たって、ただ俺は砂利の貨車を受け取りにただけだよ。そんな顔しなくてもすぐにこっちから出て行ってやるさ。」

 ディーゼル機関車が嫌いなオリバーはつい彼の態度にイライラしてしまい、前に止まっている貨車をよく確認せず動かした。
 運悪く砂利落としの上の貨車の底が開き、貨車のいなくなった線路に砂利がばら撒かれた。砂埃がオリバーに降りかかり、彼の目の前に砂利の山ができた。オリバーはすっかり動揺している。

「おいおい、何やってるんだよオリバー。」

「全く、線路の掃除の手間が増えちまったじゃないか。」

 マイクは呆れ、作業員は怒っている。
「ひぇっへっへ、蒸気機関車は相変わらずどんくさいなあ。」

 オリバーの失敗を全て見ていたディーゼルが下品な声を上げると、ダックがやって来て執成した。

「仕事もしないで何を油を売っているんだいディーゼル。革命的な最新式の機関車かも知れないけどそれじゃあ役に立つ機関車とは言えない、ダメダメ流の機関車だね。」
 仇敵のダックの姿を見てディーゼルは唸った。

「笑ってないで早く貨車を運んで行けよ。君も役に立つ機関車って呼ばれたきゃ大西部鉄道流で働いたらどうだい?」 素っ気ないダックの言い方にディーゼルは歯ぎしりした。

「口うるさいアヒルめ。」
 ディーゼルは歯ぎしりしてそう捨て台詞をぼそりと呟くと、ダックと口を利こうともせずに貨車を牽いてゆっくりと走り出した。

「やれやれ。さっさと行ってくれてせいせいした。さてと、足りなくなった貨車を取りに行かなくちゃ。」
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 次の日も朝早くからオリバーはアールズバーグ・ウェスト操車場で入れ替え作業をしていた。昨日の事故の後始末が思いのほか長引いて、砂利の配達に遅れが出てしまっていたのだ。

「おい、さっさと俺達を移動させてくれ。こんなところに俺達も長居したくないんだよ。」

「寒くて薄暗い側線に好きでいる訳じゃないんだぜ。」
「分かってるよ。君達を入れ替えるぐらい訳ないんだ。あっという間に終わらせてやるよ。」

 貨車達に偉そうに言われるのは面白くない。オリバーは貨車から砂利がばら撒かれるのも気にせずに貨車達を乱暴にぶつけて繋げていき、側線から押しだしていった。自分の客車を取りに来たダックがその様子を見ていて忠告した。
「仕事のやり方には二通りある。『大西部鉄道流』と『ダメダメ流』。今の君のやり方は『ダメダメ流』だ。昨日だって『大西部鉄道流』でやってればディーゼルの前で失敗しなかったのに。僕の支線で働くなら……。」

「分かってるよ。大西部鉄道流でやれって言いたいんだろう?」

 オリバーが呆れて言う。
 そのやり取りを車庫の陰に隠れて見逃さなかったのがディーゼルだ。彼はオリバーがダックがうるさく大西部鉄道流の事を口に出す事にウンザリしている事に気づくと、ズルそうな笑みを浮かべて作戦を練るべくその場を引き上げて行った。

 お昼頃、オリバーが1人で入れ替え作業の続きをしていると、ディーゼルが忍び寄って来た。

「アイツの大西部鉄道流には全くウンザリさせられるよな。俺も初めてこの島に来た時、嫌って程言われたからお前の気持ちもよく分かるんだ。」

「僕は今忙しいんだ。」

 オリバーは無視していたが、ディーゼルは気にせず続けた。
「アイツは大西部鉄道流で働く自分が1番役に立っていると勘違いしているんだ。」

「何が言いたいんだい。」

 オリバーが痺れを切らしてディーゼルに聞いた。

「もしアイツがこの支線で1番役に立つ機関車だと証明したら、トップハム・ハット卿はお前達はこの支線から追い出されるかもしれないな。」

 ディーゼルが淡々と言う。
「ハット卿がそんな事するもんか!」

「さあ、それは分からないぜ。なんたってこんな小さな支線、機関車1台いれば充分だろうしな。お前達がこの支線を追い出されたら役に立たない機関車としてきっとまたスクラップ置き場に送られるだろうぜ。なんせお前達は元々スクラップにされそうな機関車だったんだからな。」
「そ、そんな……。」

 同様を隠し切れないオリバーをちらりと見るとディーゼルはほくそ笑んだ。計画が上手く進んでいるからだ。

「どうすればスクラップ置き場行きにならずに済むか教えてやろう。自分達のやり方で周りにアイツよりもお前達の方が役に立つ機関車だって証明すれば良いんだ。」

 ディーゼルは高らかに言った。
「俺達、革命的なディーゼル機関車達はいつも時代を先立って最先端のやり方をしてる。大西部鉄道流みたいな古臭いやり方には従わずにな。お前達も革命を起こして古臭いやり方に囚われた煩いアヒルを黙らせる為にも、この支線から大西部鉄道流を取っ払ってやるんだよ。」

 考え込む考え込むオリバーを置いてディーゼルは引き上げた。
「へへへ、これでアホな大西部鉄道流も終わりだぜ。誰も大西部鉄道流に従わなくなって、孤立したダックの顔が見ものだな。」

 ディーゼルは計画が成功したと確信して1人嘲笑った。

 その日の夜。オリバーはダックがナップフォード港でパーシーと働きに行っている間に機関庫でドナルドとダグラスに昼間、ディーゼルにされたアドバイスについて話した。

「我々があの黒鼬に賛同する日が来るだなんて。」

「ディーゼルも中々隅に置けませんな。見る目がありますぞ。」

 困惑していたが、双子も賛成のようだ。
「君達も君達の独自の『スコットランド流』があるって言ってたしな。これは良い機会かも知れないぞ。」

 オリバーも言った。

 翌朝、トップハム・ハット卿が出発の準備をしているダックの支線の機関車達に仕事を持ってきた。

「メインランドの鉄道から砂利の注文があった。ダックとオリバー、君はちんまり鉄道から砂利を受け取って列車の用意をしてくれ。ドナルドとダグラスでそれをヴィカーズタウンにいるヒロに引き渡すんだ。」
 一緒に働き始めてすぐ、またダックの大西部鉄道流が始まった。オリバーが入れ替えが終わった砂利が積まれた貨車の長い列をドナルドにだけ繋いでいるところを見たダックが口出しする。
「そんなに沢山の貨車を1度に運ぶならダグラスと一緒に運んだ方が良いんじゃないかい。いつもそうしてるんだし。もし途中で立ち往生なんてしたらダメダメ流だ。大西部鉄道流でやった方が僕は良いと思うね。君達も大西部鉄道流の流れでやる方が……。」
「もうあなたの大西部鉄道流は聞き飽きましたよダック。」

「今日から我々のやり方、スコットランド流でやらせていただきますぞ。金輪際、大西部鉄道流の話は聞きませんからな!」

 双子はダックの方を振り向いて声を張り上げると、プリプリしながら出発した。
「僕も君と同じ大西部鉄道の機関車だけど大西部鉄道流にはウンザリだ。君は口を開けば大西部鉄道流ばかり言って煩いんだよ。大西部鉄道流が全てじゃないだろう。君のやり方に付き合わされる僕らの身になって考えてくれよ。」

 そう言い残してオリバーは貨車を移動させていった。
「何だって!」

 ダックが怒った時にはその場には誰もいなくなっていた。

「君達ときたらいつも『大西部鉄道流』のやり方を聞こうとしない。『大西部鉄道流』の流れでやった方が良いのにさ。」

 取り残されたダックは不満そうに独り言をブツブツ言うと、仕事に戻った。
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 その日、ダックの支線の機関車達はいつも以上に忙しかった。仕事量が増えてお喋りする暇すら無かったのもあるが、それ以前にその日はダックが顔を合わせても何も言わなかったのでオリバー達は喜んだ。

「これでダックの『大西部鉄道流』を聞かずに済むぞ。」

「たまにはそんな日があっても悪くないでしょう。」
 おまけに自分流のやり方で仕事を熟すおかげでいつも以上にスムーズに予定が進むので彼らは満足していた。でもそれも最初のうちだけで、すぐに問題が発生した。

 ドナルドとダグラスは二手に分かれて砂利を運んでいた。ドナルドがメインランドの機関車に渡す砂利の貨車をヴィカーズタウン操車場まで届けに行っている間、ダグラスがアールズバーグ・ウェスト操車場でオリバーから砂利を受け取り、戻って来るドナルドと入れ違いでヴィカーズタウンまで砂利を届けに行くと言った具合だ。
 いつもの2台で繋がって力を合わせて1つの列車を運ぶというやり方とは違ったが、この方がいつもより効率が良かった。双子は支線ですれ違うたびにお互いの事を励まし合った。

 ドナルドが砂利の貨車をヴィカーズタウン操車場まで運ぶ番になった。

「そんなに沢山の砂利の貨車を運んで大丈夫なんですかドナルドさん。それに少なくとも5回以上は往復しているのに十分な量の石炭と水を補給していないでしょう。」

 砂利落としの上からレックスが心配そうに声をかけたが、ドナルドは気にも留めない。
「これぐらいなんてことないですよ。それよりダグラスが戻って来るまでに予定通りヴィカーズタウンに着かなくては……。」

 ドナルドは力を振り絞って出発した。

 ドナルドは砂利が積まれた長く重たい列車を牽いて這うように支線を走っていく。いつもならダグラスと重連して長い貨物列車を牽くので負担も少なかったのだが、20台もの貨車が繋がった列車を牽くのは今のドナルドには重労働だった。おまけに石炭と水が付きかけているので、十分な力もスピードも出せない。
「ダグラスと一緒だったらこんな事にならなかったのに。」

「前にもこんな事があったな。とにかく次の駅で止まって石炭と水を補給しよう。」

 ぼやくドナルドの機関士を助手が宥める。

 だがドナルドは次の駅にたどり着けなかった。
 支線の中間地点に来た時、ドナルドの車体にガタンと音を立てて衝撃が走り、蒸気の消えていく音が聞こえた。遂に石炭と水が底を尽きたのだ。
 

 ダグラスはヴィカーズタウン操車場からアールズバーグ・ウェスト操車場に引き返している最中だった。貨車の台数は多かったが、どの貨車も空だったので楽だった。彼は快調に飛ばして行く。自分達の思うように事が運んでいるのでダグラスはとても満足していた。有頂天の彼はこの先に問題が待ち受けているとは思いもしない。
 本線から支線に繋がる信号所ではドナルドの通過が予定より遅れていたので、ポイントが切り替えられていないままだった。ドナルドが支線の途中で立ち往生したという連絡も回っていないうえに信号手が居眠りしていた為スピードを出していたダグラスはポイントが間違った方に切り替わっていると知らずに支線に入っていった。
 スピードを上げていくダグラスは線路脇に赤旗が立っている事に気づいた。

「何かあったのでしょうか。信号所では何も聞いておりませんが……。」

 そう言ってダグラスが視線を前に向けた瞬間、線路の向こう側に双子の兄弟が停車しているのを目にしてギョッとした。ブレーキをかける暇すらなかった。
 スピードの出ていたダグラスはそのままドナルドに突っ込み、線路を外れた。ドナルドは脱線せずに済んだもののダグラスがぶつかった衝撃でバッファーがグシャグシャになってしまった。ダグラスも酷い怪我を負った。彼の牽いてきた貨車達も追突しあって滅茶苦茶な状態だ。
「そこで何をしてるんですドナルド!」

「それはこっちの台詞ですぞダグラス、ここは私の線路でしょうが!」

「だからと言って何もないのに立ち止まってるって事はないでしょう!」

「喧嘩は後にして今はとにかく急いで救援隊を呼ぼう。」

 双子の言い争いを無視して2台の乗組員達は言った。

 操車場ではダックとオリバーがお互いに口も利かず砂利の貨車を入れ替えていた。

「何だか嫌な感じだなあ。」

「これは彼らの問題だし、あまり口出ししない方が良いかもね。」

 バートとレックスが囁き合った。

 マイクが近くの側線で停車していたトードに尋ねた。

「彼ら一体どうしちゃったの。」
「ちょっとお互いのやり方の違いでいざこざが起きまして。あんな苛立って事故でも起こさないと良いんですが……。」

 トードは何も起こらないようにと祈りながら心配そうに呟いたが、その祈りは届かなかった。
 ダックが貨車を牽いて移動していると貨車を押したオリバーが線路に割り込んできた。

「おい、気をつけろよ。危ないじゃないか!」

「先に貨車を置こうとしたのは僕だ。君こそちゃんと前を見ろよ!」

 ダックに気を取られていたオリバーは前をよく見ていなかったせいで分岐点で線路を塞いでいた別の貨車に衝突してしまった。
「君の方が前を見ないといけないね。ほらほら、大西部鉄道流でやってたら前方不注意で事故を起こす事なんて無かったんだ。」

 そう言って脱線したオリバーをからかっていたダックも壊れた貨車の部品に気づかず、部品に乗り上げてオリバーの押していた貨車に寄りかかるようにして横転してしまった。
「君も人の事を言えないじゃないか。」

 オリバーに言い返され、ダックは何も言えなくなってしまった。
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 夕方になってロッキーと事故の後片付けをしに来てくれたヒロがダックの支線の機関車達をアールズバーグ・ウェスト機関庫まで送り届けてくれた。

 機関庫ではトップハム・ハット卿が腕を組み、酷く怒って待っていた。
「君達のせいで今日1日でこの支線に混乱と遅れが沢山生じてしまった。君達を修理に出さなくてはいけなくなったし、その間にこの支線で働ける機関車を4台も用意しないといけなくなった!修理中、今日の事を反省してどうすれば役に立つ機関車に戻れるかよく考えたまえ!」
「ごめんなさい。こんな事になってしまって本当に申し訳ありません。」

 ダックの支線の機関車達のは同時に謝った。彼らはすっかりしょげ返り、項垂れている。
 トップハム・ハット卿が帰った後でヒロが声をかけてきた。

「気が沈んでいる時にすまないね。どうしてこんなことになったか私に説明してくれるかい。この支線の機関車達はとても優秀だと聞いていてね、同時にこんな事故を起こすなんてとても信じられないんだ。」
「鉄道の達人のあなたにもこんな醜態を晒すなんてお恥ずかしいですヒロさん。実は僕達、仕事のやり方でもめたんです。」

 ダックが俯きながら切り出した。
「ディーゼルが言ってたんだ。ダックが大西部鉄道流を押し通すのは大西部鉄道流で働く機関車こそが役に立つ機関車だってことを証明して、この支線を自分だけのものにしようとしているって。」

 オリバーが言うとドナルドとダグラスも続けて言った。
「この支線がダックだけのものになったら我々は追い出されて、スクラップにされるんじゃないかと思い……。」

「自分達のやり方でダックよりも役に立つって事を証明してみせようと思ったのです。」

 そこまで言ってからダグラスは小声で付け加えた。

「大西部鉄道流にも飽き飽きしていましたしね。」
「確かに仕事のやり方はそれぞれあるだろうね。ダックには大西部鉄道流がある。でもそれを人に押し付けるのは良い事だとは言えないな。」

「仰るとおりです。反省してます。」
「それにダックはこの支線を自分だけのものにしようとする愚かな機関車ではないよ。君達はディーゼルに付け込まれたんだ。」

 ヒロの言葉でオリバー達はハッとした。

「そう言えばそうだ。」

「確かにあのディーゼルの事は特に信用できませんぞ。」

「我々があの黒鼬に良いようにされてしまったとは……。」
「それから今日の事で特に覚えておいてもらいたのは君達が1つのチームだという事だ。仕事のやり方以前にお互いの事を考え、チームを大切にすることが何よりも大切な事なんだぞ。」

 ヒロの言葉に小さな大西部鉄道の機関車達は黙り込んだ。
「ゴメンよ皆、僕、大西部鉄道流を大切にするばかり周りが見えなくなって、君達に迷惑をかけてたよ。」

 沈黙を破って最初に謝ったのはダックだった。

「いえいえ、我々もディーゼルに騙されていたとはいえ仲間のあなたの事を信用せずに勝手な振る舞いをしてしまって反省しております。」

「どうか許しておくんなさい。」
「僕たち、またチームに戻れるかな。」

 オリバーが不安そうに問いかけた。

「もちろんだとも。なんたって僕らは小さな大西部鉄道の機関車だからね。」

 ダックは明るい笑顔で言った。

「君達が早く修理されてこの支線に戻って来る事を祈るよ。修理されれば今よりもっと気分が晴れるさ。」

 ヒロが明るく励ました。
 これで彼らの蟠りは解消された。彼らの心はソドー島を包む夕日の様に穏やかだった。

 

◎変更点

・第1稿では「ダックの支線を訪れたヒロの前で、ディーゼルの企みによりプレッシャーを感じたダックが醜態を晒してしまう」と言うエピソードだったが、諸事情でまるまる今回のストーリーに変更した。

・ダックが公式で再登場してから因縁の相手でもあるディーゼルと関わらなかった事や、過去の出来事からディーゼル機関車と折り合いが良いとはお世辞にも言えないドナルドとダグラス、オリバーがディーゼルと公式で絡んでいる記憶が無かった為、アンチディーゼル主義寄りに当たる彼らとディーゼルの絡みを作るべく今回のエピソードを書いた。

・ヒロがダック達を励ますのは第1稿の名残。

・ドナルドの失態にぼやく機関士を宥める助手が発言した台詞は公式S6「ふたごのけんか」を指している。

 

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