色んな方と、様々な話をしている中で、
ふと、思い出した事がある。




細かい事情は割愛するが、
今から数十年前、二十歳を少し過ぎた辺りの頃、
数年、トレーナーの修業をした後に、
今で云うフィットネスクラブで働き始めた時のこと。


(当時はフィットネスクラブなんて言葉は無く、
アスレチッククラブ、あるいはヘルスクラブと呼ばれていた)



私は主に、幼児の体操教室の担当を命じられ、
何せ経験もないものだから、覚えることばかりで、毎日悪戦苦闘。




仕事の苦労はさておき、
最も苦痛だったのは、当時の上司の対応であった。



「あなたって、覚え、悪いよね。」



女性のチーフだったのだが、
入って数日で、そのように言われたのをはっきり思い出す。




他のスタッフとも、ひそひそ「どーも今度の新米は使えない」と話しており、
出来の悪い新人と云うレッテルを貼られてしまった。



意識過剰かも知れないが、他のスタッフもなんと私に冷たい態度というか、
少なくともフランクな感じではない。




今で言えば新人いびり…いじめとも云えるかも。






私としては、何とかそのレッテルを剥がしたかったので、
自分で出来るだけの努力をしたが、
評価はあまり変わらず…




そのうちに、さじを投げられたのか、意図はよく分からないが、
他の店舗に研修を命じられ、数日間出されてしまった。




研修先の店舗のチーフの方は、数店舗を統括している人で、
いわば私がいた店舗のチーフの上司にあたる。




何となく想像がついたのは、
私の出来を判定してもらい、その上司がバツ判定するのなら、それを理由にクビにしてしまおう…


…くらいの話があったようだ。





そこで数日間、研修と称して業務にあたったのち、
自分の店舗に帰り…



女性チーフに呼ばれて言われたのは、




「研修先の上司から報告聞いたけど…」



と切り出され、「こりゃ~クビか…」と覚悟したら、




「よくやってくれてた、って言ってたよ。
やれば出来るんなら、こっちでもやってよね。
頼むよ、ホントに…」



…と。





もちろん、私は入ったばかりで大した事は出来ないので、
研修先でも特に変わったこともやらず(やれず)、
普通に同じ仕事をしただけであった。




後日談を先に話すと、
結果として次の人事異動で、先の研修先のチーフが私の上司になり、
その方に見出され、一年後に管理職になり、
数年後に転社(私は転職とは云わない)し、
その後は……




まあ、人並みに出世し、
独立して、今日に至る………




一応、スポーツの分野でそれなりにやって来られた。




…と。






また、その女性上司は少しして結婚退職したのだが、
後から聞いたところによると、時間にルーズ、能書きは達者な割には仕事もいい加減。


社内の評判も良くは無かったようだ。






さて、話の趣旨は私の立身出世話ではなく、





肝心な事は、
入店した時の私と、研修先での私は、どちらも「私」であり、
同一人物である、と云う事である。




おんなじ人間でも、相手が違えば180度、全く異なる評価を受ける。



その評価、判断が間違っていれば、その後も他の店舗、人から悪い評価になるだろうが、
幸い、私は正当な評価を受けられ、今日まで生きて来られた。






つくづく思い出すのは、
「上司になる」…人の上に立つ事の責任の重さ。

さらに云えば、

「人の上に立つ事の苦さ」

を、この事で知る事が出来たのである。



その後、私も人を管理する立場になった事もあり、
もちろん、それからも数多くの失敗があり、今思い出すと顔から火が出る思いになる、恥ずかしい事件もあった。





それでも忘れなかったのは、この体験を通して学んだこと。






上司のさじ加減一つで、
もしかすると、その人の人生を変えてしまう事にもなり得るのだ、


と云う事である。





どんな規模の組織に於いても、


上に立つ人は、部下の人生を左右してしまうことも有り得る存在であり、
やはりその責任は軽くはない。