「最後の指先ですね。
そこんところに力を入れるだけです。
どうでも良いや、って、いい加減に投げるようにして、
ボールを切る瞬間の指先に力を集中させるんです。」







福岡ソフトバンクホークスの杉内俊哉投手の、
自分の投球を分析した言葉である。







どんなスポーツの動作でも、
実際の動きと云うのは、非常に複雑な動きの集合体である。




投球動作で云えば、上腕だけでも内旋、外旋、内旋…

と交互に訪れ、変化球によっては人差し指で切るか中指で切るか…






それに下半身の動きが加味されるので、
とても自分の意識で全て制御出来るレベルのものではない。





それを最初は、
意識下において反復し、
脳ー神経レベルで刷り込み作業(プリンティング)をし、
無意識下レベルまで昇華させたものが、
パフォーマンスとして発揮される。






つまり、全てを意識下でコントロールするなど、
不可能なのである。







だが、
そのインプットされた(プリンティングされた)情報を引き出す



「きっかけ」。




あるいは




「スイッチ」。





と言い換えても良いが、
そういう感覚が存在する。






人間が、感覚的に意識出来るのは、
最大で二カ所、基本的には一カ所であると思われる。







つまり、
訓練・鍛錬によって刷り込まれた動きのパターンが、
あたかもオートマチックの如く、自動的に引き出される「スイッチ」のような「呼び水」的な動作や感覚…






が、選手それぞれ、存在する。









つまり、





「それさえ意識すれば、
あとは特別に意識せずとも、勝手にオートマチック的に動いてくれるツボ」




があるのである。








これは、恐らく全てのスポーツに当てはまる。






本番に於いて、
意識する場所が多くなければならない選手は、
残念ながら一流にはなれない。







その、

「ツボ」。

「スイッチ」。




を見つけるのは、もちろ本人の鍛錬、


また、コーチの仕事である。







また、杉内投手の言葉で印象深いのは、


「いい加減に投げるように」



と云う表現である。






これを聞くと、一般の方は「?」と感ずるかも知れないが、
推察するに、これは





「脱力」





を意味する。





身体レベル、脳・意識レベル、に於いて。








ある意味、
「指先の感覚さえ意識すれば、
自分は良いパフォーマンスが出せる」



と云う、ある種の確信があるのであろう。





云ってみれば、
その感覚に従って、
あとは、





「余計なコトをしないだけ」







それを、「いい加減」と表現したに違いない。







杉内投手の、長きに渡る安定感の秘密が分かる、
大変貴重なエピソードである。