昨年辺りからほぼ定期的に、
あるレーシングチームの“ボディコンディショニング”の依頼を受けている。
と言っても「レーサー」ではなく、「ピットクルー」の方々である。


ピットクルーには様々な人がいるが、
その多くはマシン整備のスペシャリストである。
F1中継で見るような、いわゆる「タイヤ交換作業」も、
この方々の仕事である。
その現場は迫力そのもの。
まさに“戦場”さながらである。



このスタッフの方々も日々激しいトレーニングをしている。
タイヤ交換のタイムをアップするために。
レースの長丁場、集中力を維持するために。
その他作業スピード全般を上げるために。
中にはピットクルー用の専用トレーニング施設を持っているチームもある。



私は元々は、この皆さんの身体の調整の施術を行っていた。
職業柄、腰痛や膝痛などの様々な障害を抱えていたからである。
ところが少しづつ、次のような要望が出て来始めた。


「施術を受けると身体の動きがぜんぜん違う。
 痛みを治して欲しいのももちろんだが、
 それよりもコンディショニングの為に、
 特にレース前は調整をお願いしたい。」


スピードを競うカーレースの場合、
ドライバーが速く走るのはもちろんだが、
実はその中には、マシンがピットに入った時の作業時間もタイムに含まれる。
最も重要なのはタイヤ交換の時間である。
或るスタッフは、
施術を受けるとコンマ1~2秒、交換タイムがアップする、と言う事であった。


たかがコンマ1秒と笑うなかれ。
この積み重ねが勝利か敗北かの分かれ目になる事もあるのだ。



私が行っている技術というのは、
「捻れたホースのヨリを戻し流れをスムースにし」
「ギアの狂いの微調整をしてオイルを挿し」
「バッテリーをチャージする」という事なので、もちろんそういう効果もある。
面白い因果だが、
マシンのメンテナンスを行う人の身体をメンテナンスする、というまさに“サイクル”状態。
(いや、正確には私をメンテしてくれる人はいないので、サイクルにはなってないが…)



私のような「整体」「手技療術」師、と言うと、
すぐ“痛み・不具合”などの除去、と考えがちだが、
実はこのような目的にもオーダーがある。





その他にも、知的労働の職にある方々で
思考回路の回転速度を上げて仕事のパフォーマンスを維持したい・アップしたい、
という事で私に毎週の様に依頼がある人もいる。



この辺りはクライアントの“価値観”ということになるが、
このような仕事を先方に“トレーナー”と認識されるか否かは別にして、
「パフォーマンスをアップさせる」事がトレーナーの仕事であるとするならば、
まさにこれは「トレーナー」。
痛みを改善させる事もそうならば、
痛みが無くとも現状の能力を最大限に発揮させる事もまたトレーナーの真骨頂。
その為には、特段整体に限らないが様々な技術が必要になる。


それと同時に「アスリートの競技力向上」という視点だけでは、
これから「トレーナー」が活躍出来る領域を自ら狭める事になる。




私は今までの経緯から、様々な“顔”を持っているが、
「整体屋のおやじ」か「トレーナー」かは、
まさにボーダーレスなのである。