まだまだこの日の報告は続く、とはいっても事件が目白押しにあった
わけではない。ゆるい時間の中、ポツポツ小さなイベントが発生して
いただけなのだが、何しろ下界の慌しさから隔絶された病人の生活
である。ひとつひとつのイベントに大きな意味を感じてしまうのだ。
このとき病室にはオレと同年代が1名、60オーバーが2名の4名が
入院していた。そのうち同年代は同じく絶食中。夕方、還暦組が食事
をする音をやや疎ましく耳にしながら大人しく本を読んで過ごす。
そこに友人代表1号が登場。巨大なカバンに「鋼の錬金術師全20巻
(当時発売分の最新まで)」を持って登場。狂喜乱舞。非常にわかり
にくい道なのに仕事の都合をつけバイクで来てくれたのだ。ありがた
い話である。多大なる感謝。ベッド脇の小空間は一瞬にしてマンガ本
で埋もれた。1号と病室でライトな会話。そのうち彼が同じ症状で入院
した幼少期の話を聞く。モチロン症状が同じなだけで原因は同じでな
い。幼少期から酒で膵臓を壊す奴はいない。聞くと入院期間はやはり
1ヶ月ほどかかるのでは、とのこと。ショックを隠し、次回にドクターが
来たときの質問事項になるような情報を記憶に残す。面会終了時間
が近づいたので点滴スタンドと三人連れで建物の外まで送り、入院
生活初めてのタバコを吸う。これも歩けるようになった者の特権だ。
ここぞとばかりに大いに享受した。日を改めまた来るという彼に感謝
し、病室に戻る。その後は目立った事件もなく、今までになく明るい
キモチでベッドに入った。今後に期待できるコトが続いた日だった。
好事魔多しとはよくいったものだ。RCサクセションも「いいことばかり
はありゃしない」と歌っていた。確かあの歌は「あの娘が電話をかけ
てきた」とハッピーな内容になり「働いて眠るだけ」というシンプルな
ライフスタイルを歌い上げていたはずだ。オレの場合は眠れなくなっ
た。40年以上生きてきた中で、最強の「いびきかき」とそのナンバ
ー2の仕業だ。最強は還暦組窓側。コレは凄かった。メカゴジラなの
だ。一般的にいびきは片道派と往復派に分かれ、往復派は必然的
に迷惑度が片道派の200%になる。しかし往復派でも息を吐くときは
音程が下がっていく。ヒトは肉体構造的にそうなるのである。しかし
還暦組窓側は違った。息を吐き、横隔膜の運動が収まってきても、
金属音が混じった音で音程が上がっていくのだ! しかもインター
バルなしで! この人は翌日には退院したので1日しか観察できな
かったが、たぶんイルカのように背面か後頭部、または頭頂部に排
気口があり、そこから呼気を排出しているはずだ。そのときのエグゾ
ーストが金属的に鳴っているのだと思われる。マフラー交換をしてい
ただきたい。是非とも。早急に。家族はどうしているのだろう。
ナンバー2はオーソドックススタイルの往復派だったが、そのパワー
は「ウルトラヘビー級」だった。後日彼とは会話を交わすようになった
ので多くは語らない。素直で愛想が良く、子煩悩で家族を大切にす
るお父さんで、友人になったとしてもおかしくないような人物だった。
しかし、看護師が「通路からでも・・・」とか「好調時はナースステーシ
ョンからでも・・・」というようなことを言うパファーマーだった。オレの
ベッドは彼のベッドと並行に2メートルほどしか離れていない。さえぎ
るものはカーテン1枚。至近距離である。正直まいった。オレだって
団体生活の経験はあるし、男同士でイビキがどーのこーのとしみっ
たれたことをいうつもりはないが、これはもうタイヘンだった。退院した
ときに一番嬉しかったのは、やはり一人で寝れることだと言いたい。
この日の出来事を3つのチャプターに分けて報告してきたが、オレも
明るくベッドにはいったことだし、この辺で終わりたい。またこんど。