遠い昔。
セシルはアパレル販売をしとった。
割とお高めのお洋服を扱ってましてな。
男女とも扱ってましたの。
それはそれはお気楽極楽で働いていたものよ。
ただな。
上記に書いたように、‘割りとお高めの服’を扱ってたわけ。
金持ちさんはね、基本的には愛想がいいの。
プライド高いからね。
中途半端になりあがった人はタチワルイんだけど。
すぐに‘ネェちゃん、もうちょっと安くならへんの!?’ってとりあえず聞いてみやがるから、あいつら。
めいいっぱいの薄ら笑いでお断りすんだけど。
んでなぜか、そういう‘ちょっと厄介そうな人達’がくると・・・
(ここはセシルに任せよう!!)
っていう、暗黙のチームメイトによる罠が仕掛けられてたんだけども。
やっぱね、なんかこう上場企業のえらいさんとかでも、派手目な方って、雰囲気違うよね?
そういうの、苦手な人多いのね?
私全然平気だけど。
だから私の顧客はいろんな意味ですごいのそろってた。
めちゃくちゃ買ってくれる。
うん。
めちゃくちゃ。
一回で30万ぐらい買ってくれるんだ。
おまけに‘ヘラヘラ笑って対応するセシル’がもの珍しいのか、次から来た時は手土産とか持ってきてくれる。
(厄介チームはセシルにお任せ!!)
って他のスタッフは私に押し付けるくせに、差し入れだけは間髪入れずに食うよね、皆。
で、めちゃくちゃ買ってくれる分だけ、時々わがまま言うよね。
電話にて。
‘オ~!セシル!今からお茶飲みに来いよ!’
‘オ~!セシル!今からメシ食いに来いよ!’
‘オ~!セシル!今〇〇(店の近所)にいるから、迎えに来いよ!’
私、仕事中なんですけど。
ホステスじゃないんですけど。
でもブンブン尻尾ふって行くよね。
店長も‘行ってきな!!’って言うし。
まぁそういうお客さんの中で、後にも先にも忘れられない方々がいるわけ。
タイトル通り。
やくざ一家が来店したわ。
初め見た時に、‘ん?絶対素人ではないな。’とは思ったけど、本物とは思わなくって。
いつもの様に、誰も寄りつかないから、私、声かけたよ。
そのやくざ一家の構成はというと・・・。
・50~60代のおばさん(絶対仕切ってる
・やくざのおやじ(推定35~40歳)
・やくざの娘二人(100キロ級のデブ・弱冠頭に問題もあり
・やくざの娘の旦那(ひょろひょろ
この群団が広い店内を所狭しと洋服ぶっちゃけて見まくってる。
そして‘やれこのサイズはないのか?’とか‘色違いはないのか?’と、あっちこっちで言いまくる。
私、店内走りまくりのフルマラソン。
惜しくも季節は夏。
当然半そでがメイン。
やくざのおっちゃんが気に入った物も半そで。
おっちゃん・・・分かってるでしょ?
それ、わざとでしょ?
‘長袖はないのか?’
って何回聞くのよ?
‘季節がら、ほとんど半そでしかないんですが・・・。’っていう私に、ちらっと腕を見せて、‘おっちゃん、コレがあるから半そでは着れないんだよね・・・。ニヤリ。’
はいはい。
入れ墨ね。
そんなのもう1枚、ぴたぴたの肌着でも着てカムフラージュしなさいよ!!
早く買って帰って、その入れ墨のお手入れでもしなさいよ!!
100キロ級の娘二人なんて、サイズが論外。
規格外。
それでもなんとか選んで差し上げたわよ。
仕切ってるおばはんも適当に選んで、なんだかんだで結構な額、買ってくれたわ。
そして‘あとで取りに来るから、置いといて’
持ち歩きなさいよ!
まったくもう!
~1時間後~
何やら高級時計の袋ぶら下げて、一家は帰ってきた。
親父、‘姉ちゃんこの時計知ってるか?めちゃくちゃ高いねんで。100万ぐらいするで。ニヤリ。’
その‘ニヤリ’やめなさいよ。
‘うわぁぁぁぁぁ!すんごいですねぇ!
ヒャーかっこいい!!100万いうたら、私半年はタダ働きですよ!
お金持ちは違いますねぇ~’
親父ご機嫌。
おまけにその時店内でかかってた音楽が、何やら親父のお気に入りの映画のワンシーンに出てくるらしく、‘オッ!姉ちゃんこの歌知ってるか?この音楽に合わせて主役が踊るんや。こうやって(踊ってる)こうやってな・・・。
姉ちゃん、踊ろうか?
オドル?
イマナントオッシャイマシタカ?
ココハ フクヲ ウッテルバショデース!!
オーノーーーーー!!
その時の私のイメージ映像↓
そんな私の心はオール無視して、おやじは私の手をとり踊る、踊る、踊る。
ちょっとタンゴとか入っててアグレッシブ。
たまにルンバ?みたいのも交えやがって、イラッ。
うっかり足とか踏んでみ?
うっかり私の小指とか無くなるかもしんないじゃん。
ハラハラドキドキ。
店内を踊る販売員とやくざ。
この絵づらの凄さ。
(もう・・・耐えられない・・・。誰か助けてよ・・・。なんで服を売ってるだけで、踊らなければならないの・・・。)
ものすっごい心の葛藤。
したら一家の仕切りばばぁが、‘もうその辺にしとき!帰るで!’
助かった・・・。
こうしてやくざ一家は何事もないように帰っていった。
最後に仕切りばばぁは言った。
‘アンタ、めちゃくちゃ気に入ったわ、名前は?セシル?よっしゃ!今度からアンタ指名するから。ヨロシクな。’
滝汗。
また・・・踊るのかしら・・・私って・・・。
~結果~
それっきり来店しませんでした。
ただ。
踊った事が孫の代まで語り継がれる結果だけを残して。
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