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 本の紹介:『麦酒とテポドン 経済から読み解く北朝鮮』(文聖姫、平凡社、2018年12月刊)

 

 

 

 

 筆者は元朝鮮新報社の記者であり、退職後は東京大学大学院人文社会系韓国朝鮮文化研究室へ進学。17年に博士号を取得し、現在は『週刊金曜日』編集部に勤める。

 

 本書は、筆者が計15回もの訪朝の末、分析・研究した内容をまとめた博士論文「北朝鮮における経済改革・開放政策と市場化」をベースにして、共和国を経済の視点から追ったものである。

 

 本書では次のように述べられている。

 「北朝鮮といえば、読者は何を想像するだろうか。核兵器やミサイル、拉致、飢餓や独裁……そんなところかもしれない。巷には膨大な量の北朝鮮情報があふれている。だが、北朝鮮の人々が何を考え、どのように生活しているのかを伝えてくれるものは少ない。ほとんどが指導部の政策を分析するものか、庶民の生活を描くものでも、脱北者(省略)をソースにした飢餓や生活苦などマイナスイメージを強調したものが目立つ。まさに『残酷物語』。だが、果たしてそれが北朝鮮の実像をすべて伝えているとは言えるだろうか。」

 

 日本は共和国に関する大量の「専門書」や「概要書」で溢れているが、そのほとんどは両面的な分析・解説であると言えない。ソースを見ても、一部の側面しか強調されていない一方通行的な資料に依拠していると思う。そこには様々な要因があるが、とりわけ共和国を正確に分析して判断する資料(材料)が不足している(非公開されている)事情があると思う。経済に関しては、なおさらだ。しかし問題なのは、そのような状況にも関わらず、主観的・客観的情報を集めて総合的に分析せず、偏った資料をもとに共和国の全体像を捉えたように記す人物がたくさんいるということだ。俗に言う「北朝鮮問題の評論家・コメンテーター」たちだ。

 

 しかし本書は、それらとは質が異なる。なぜなら、筆者が「研究者」として、学術研究レベルに達する資料分析・調査を踏まえているからだ。その研究姿勢は、以下からも読み取れる。

 「私は大学生時代の一九八四年に初めて訪朝して以来、二〇一二年まで計一五回北朝鮮を訪れた。このなかには二度の平壌特派員と研究目的の現地調査など長期滞在も四回含まれる。常に関心を持って追求していたのは、北朝鮮の一般の人々の普通の暮らしだ。その人々の喜怒哀楽を知らずして、その国の実像を知ったとは言えないだろう。

 そのため、現地ではできるだけ多くの人々と接触するよう心がけ、彼らの日常生活を観察し取材することを試みた。すると、日本で伝えられるイメージとは違った北朝鮮の姿が見えてきた。人々は制限された環境にあるとはいえ、その中でたくましく、したたかに生きてきた。

 本書では北朝鮮の人々の普通の暮らしぶりや考えをできるだけ伝えたつもりだ。書くにあたっては、自分の目で見たり体験したり現地で聞いたりしたことだけに限定した。取材源のはっきりしない伝聞情報は、特に北朝鮮のような国について語る際には注意が必要だと思うからだ。」

 

 文氏の「率直さ」「真面目さ」は、こんなところでも読み取れる。「朝鮮新報」のコラム(日本語版、02年9月25日付)を読んでほしい。

 

 朝鮮新報社に勤めていた2002年9月17日以降、日本人や同胞から激しい批判を浴びる中、自らを恥じ、その責任を痛感したとして、このコラムを書いた。そこには記者としての「良心」と「勇気」が写っている。同じ同業者として、人間として尊敬した。