ちょうどそこは本牧トンネルを抜け、海風を感じる“ゴールデンカップ”の前だった。

 

俺の周りで一番上手かったカズオが17歳で逝っちまった。飛び出してきたネコを避けたハイサイドだった。カズオは俺たち“スクランブル5”のヨシの従兄弟で一つ年下だった。俺たちオフロード屋とは路線の違うロード屋だった。ブルーとクリームのツートンに塗り分けられたCB250EXは、いかにもカズオらしい選択だった。CB72譲りの4ストOHC2気筒の構成は手堅い設計で、新しさこそ感じないが、いろんな意味で優等生のように良くできたマシンだった。正にホンダの横綱相撲のようで、どこに行ってもよく目にしたバイクだった。

 

カズオはその頃流行ったイージーライダーの影響を受けて、大きなイーグルハンドルに背の高いバックレストを付けて乗っていた。仲間が違うし、学校も違うので、バイクの話をしたこともなかった。

二人姉妹の下に生まれた跡取り息子を突然失った母親は、息子に別れを告げることができなかったようだ。家の前を通ると、2階にあるカズオの部屋の電気は一晩中消えることはなかった。その真夜中の電気を見るのは俺たちにとっても、とても辛いものだった。

 

『本牧で死んだ子はカモメになったよ。ペットのブルースに送られて、踊るのが好きだと言ってたあの子が、寂しさに耐えかねて....』そんなブルーコメッツの新譜がリリースされたばかりだった。