俺はYAMAHAファンだ。というよりDTファンなんだ。ところが雑誌を見るとSUZUKIハスラーの評価がやたらと高い。DTファンとして、これは許せなかった。俺たち“スクランブル5”は、最初“DTクラブ”みたいなものだった。そこに哲のCL72が入ってきた。同じクラスにハスラーに乗るテケがいた。仲間にするか?何しろ4人しかいないメンバーだ。一人くらい増えたっていいじゃんか。ちょうどワッペンを作ろうとしていたところだったし、“Scramble 4”よりも、“Scramble 5”の方が語呂がいいしな。なにより、評判のハスラーに乗ってみたかったんだ。

 

次の日曜日、青木橋で待ち合わせをして七里までツーリングに出かけた。もちろんテケも一緒だ。途中、逗子海岸で遊んだ。誰もロックセクションなんてやったこともない。なんとか両脚を突きながら走った。テケがカボチャくらいの岩の上で見事に転倒。みんなで腹を抱えて笑った。ところが周りをよく見ると、石の上には漂着した黒いタールがべったり。結局みんなでポテポテ転びながら脱出した。その頃はトライアルなんて言葉すら知らなかったもんだ。

 

ハスラーに乗ってみると、ハンドルはやたらと低くて幅が広い。ピストンバルブエンジンは結構高回転型でよく回るが、DTのような低速の粘りがない。つまり俺には乗りにくいバイクだった。それで俺は安心した。

 

暫くして、SUZUKIのRH69が矢島金次郎で世界グランプリを制したってニュースが飛び込んできた。でも世界GPに大して興味のなかった俺は“低く遠くに飛ぶ”ヤジ金と、“高く豪快に飛ぶ”鈴木忠男のどっちが速いんだろうと考えていた程度だった。ハスラーの特性がDTよりも、よりレーシーなユーザーに振ってあったなどとは理解できようもなかった。

 

本当はビッグニュースなのに、DTファンの焼き餅で早く忘れたかった。

 ハスラー、ごめん!