流麗なパールホワイトのタンクは、その下にあるダブルクレードルフレームの剛性を語る前に俺達をノックアウトしてしまった。それも本当のワンパンチだった。足の長いセリアーニタイプのフロントサスと相まって、そのプロポーションは抜群だった。まさに一目惚れだった。
ところが、この美女に一度跨ると、その空冷2ストシングル・5ポートピストンバルブエンジンは凶暴な本性を露にして、俺達の踵に噛み付いてきた。これが伝説のDTの“ケッチン”だった。やがてRT1が発売されて、デコンプが付くまで、安心して彼女と付き合える奴は少なかったろうな。
たくさんの男達がDTに誘惑されて、河原のデートに引っ張り出されたんだ。メーカーのレーシングキットを組み込むだけで、即レースに出られるポテンシャルの高さを持っていた。恥ずかしいけど小柄な俺は、シート高もあるけれどやっぱりケッチンが怖くて双生児の妹AT1と付き合うことにしたんだ。でも姉ちゃんの艶っぽさには、とうとう最後まで圧倒されっぱなしだった。
その頃のヨーロッパのモトクロッサーは、奇形的なグロテスクなデザインばかりだった。東洋的なフォルムを誇るDT1こそ、正に日本のデザインの完成形だろうと思った。実際、いくら見ていても飽きることがなかった。日本に“トレール”ブームを作ったのは、間違いなく姉ちゃんのDT1の魅力だろう。
今でもディスプレイされている彼女を見ると、ドキドキするのは俺だけだろうか?