春の史学学会の数日前、私の研究室で発表の予演会をすることになりました。
教授に準備をするように言われたので、スライドの映写機を借りてきて準備しました。
それから、なにかお菓子とか用意した方がいいでしょうかと聞いたところ、
「東大からも学生が何人か来るので、なにかお茶菓子くらいは用意しておいて」と言われました。
私は生協でなにか、ポテトチップとかお菓子を買って来ました。
予演会では、先輩が去年九州にいって、調べてきた研究が発表されることになっていました。
先輩はかなり緊張している様子でした。
予演会のあと簡単なお茶とお菓子を用意しましたが、東大から来た男の子達はほとんど手もつけづに帰ってしまいました。
(2)
学会が終わってしばらくして教室に行くと、みんなで羊羹を食べていました。
このあいだの学生の一人が学会に行ったときおみやげに買ってきてくれたそうでした。
私の分もあるというので、私も自分でお茶を入れて食べました。
それから数日たって今度はみんなでケーキを食べていました。
またこの間の学生さんが来て、おみやげに大学の近くのケーキ屋で買ってきたそうでした。
先輩の話ではどうもお目当ての子がいるらしくて、そのために用事を作っては教室に通ってくるらしいということでした。
この間の予演会で、出会って一目惚れしたとかの噂だそうです。
いきなり誘っては断られると思って、こうやって何度もおみやげを持っては顔を売りに来てるのだそうです。
その日に夕方、アパートで夕食の支度をしていると、電話がありました。
ケーキを持ってきた男の子でした。
男の子は「吉村哲治と言います。」と緊張したようすで自己紹介を始めました。
すこし話をしたあと「最近映画はみましたか」聞かれました。
見ていないと答えると、「今度一緒に見に来いましょう」と誘われました。
どうやらお目当てというのは、私のことだったらしくて私はびっくりしました。
(3)
私のアパートの近くの地下鉄の駅で待ち合わせをしました。
私は部屋の掃除をしたあと、服を選んだりお化粧をしたりで少し遅れてしまいました。
哲治さんは時間どうりに来てまっていたようでした。
「遅れてごめんなさい」と私がいうと「僕も今きたところです」と言ってくれました。
途中の地下鉄のなかではなにか話をしないといけないと思い、私の郷里の親の話とかしました。
銀座まででると、映画館まで歩きました。
入り口の切符売り場で哲治さんが切符を買ってくれました。
私もお金を出そうとしましたが「僕が払うから」といっう受け取りませんでした。
映画館の中にはいると、切符は指定席で前の方のいい席でした。
映画が始まるまで私はまた、郷里の話を続けました。
哲治さんは時々相づちを打ちながら聞いていました。
休憩時間になって、哲治さんは席をたって飲み物を買ってきてくれました。
炭酸飲料は好きでないので普段は飲まないのですが、しかたなく受け取って飲みました。
映画が終わってから、映画館の下にあるデパートに入りました。
順番にエスカレータで下に降りていくと、アクセサリーの売場がありました。
私は「みてもいいい」と哲治さんに聞いてからネックレスや、ブローチをいろいろ見て歩きました。
今度のコーラス部のコンサートの時なにかつけたほうがいいかしらと哲治さんに聞くと、
哲治さんはすこし頼りない雰囲気でうなずいていました。
私が気に入ったのを探して「これどうかしら」と言うと「よく似合うよ」と言ってくれました。
私がネックレスを台に戻すと、男の子はそれをとってレジに並びました。
私がびっくりしていると、「プレゼントにしてください」と言ってお金をはらっていました。
結構高いネックレスだったので、こんなにしてもらって悪いことしたと思いました。
食事をしていこうと言われて、近くのレストランに入りました。
(4)
海がきれいだから見に行こうと、横浜まで誘われました。
駅の近くのタクシー乗り場で、二人でタクシーに乗り込みました。
行き先を哲治さんが告げたとき、タクシーの運転手は返事もしませんでした。
町中をしばらく走ると、タクシーは速度を速めて横浜へと急いでいるようでした。
哲治さんは何気ないそぶりで、私の手を取ると、哲治さんの手を重ねてきました。
哲治さんの指先は私の手の平を、のの字を書くようににして、ゆっくりくすぐるように動いてきました。
私は、困ってしまいましたがうつむいてじっとしていました。
タクシーの運転手はなにも気がつかない様子で、運転を続けていました。
哲治さんは今度は、私の膝のあたりに手を伸ばしてきました。
膝頭の上をまた、くすぐるように指先が動き続けました。
私は、どうしようかしらと思いながら、外の景色をみていました。
やがて、タクシーは、港の近くについたようでした。
タクシーは、山下公園の入り口で止まりました。
(5)
哲治さんは、私と手をつないで公園の中にはいっていきました。
もうあたりはすっかり暗くなって、海辺に近くなっても、遠くの船の明かりしか見えませんでした。
私たちは、海から吹き寄せる風をうけながら、海岸の岸壁を並んで歩きました。
岸壁の手すりには、恋人達がすこしづづ間隔を置いて並んでいました。
抱き合ってキスしているカップルもいて、私はどこを見ていいのかわかりませんでした。
しばらく歩くと芝生の植え込みがありベンチがたくさん並んでいました。
どのベンチにも恋人達が座っていましたが、奥の方の暗がりでちょうど席を立つカップルがありました。
「ここにしよう」と言われて私達はベンチに座りました。
哲治さんは私を見つめながら「とても素敵だよ」と私のよろこびそうな言葉を口にしました。
哲治さんの手が私の膝に伸びると、私の膝頭の感触を楽しむように動き始めました。
微妙な感覚に、私の膝が震えると、哲治さんの指先はさらに大胆に、巧みな動きを始めました。
思いもかけない感触が私の体の芯から広がり、泉のように溢れだしました。
頭の中まで、熱い奔流が流れこみ、私は半分夢のなかにいるかのように体が重くなりました。
哲治さんは私の手をとると、ベンチの裏に連れていきました。
そこには、半分森のような小さな小山がありました。
細い道をたどって上に登っていくと、頂上には手すりがあり展望台になっていました。
真下に広がっているはずの海は真っ黒で、所々に船の明かりが光っていました。
哲治さんは私の後ろに回ると、私の両手を手すりにつかせました。
欲望の嵐が私の体に襲いかかってきました。
浜辺におしよせる波のように、欲望は繰り返し私の体に押し寄せては退いていきました。
しだいに激しさを増す欲望には抵抗する気力もなくなるほどの荒々しさがありました。
これが運命の決めた時だとあきらめの気持ちは、やがてあふれ出る泉を呼び起こしました。
竜巻のような激しい勢いで吹き抜ける嵐の中では、もう逃げることもできませんでした。
抵抗する気力もないくらいに私の体はもてあそばれました。
いつまで続くともわからない時間が私の心の中で凍り付いていました。
このままずっと続くのなら、私の体はもう屈服するよりないと覚悟を決めました。
哲治さんの欲望は私の体を責め続けると、ようやく最後の一撃で私を打ち砕きました。
