おばあさまの到着~

 

 

「もう少し急いでくれないか!もうパーティは始まってる時間だ」

ゼーゼマンは、馬車の窓から顔を頻繁に出しながら懐中時計をチラチラ見て

馬を急がせるように御者に言った。

 

クララのおばあさまは、そんなゼーゼマンにあまり焦るのはおやめなさい、

みっともないですよ。と微笑みながらたしなめた。

 

フランクフルトの街中を二人が乗った馬車が勢いよく通り過ぎた。

 

御者は、勢いよくムチを馬に打った。馬の悲鳴が街中に響き渡った。

石畳に響く馬の蹄の音は、ゼーゼマンの焦る心を少しだけ落ち着かせた。

 

 

 

 

賑やかな街の人達の声がお屋敷の前の通りまで聞こえる。

今ではすっかりゼーゼマン家は、毎月恒例、お祭り騒ぎで有名だ。

 

「まぁまぁ、賑やかですこと。やっとついたわ。クララは元気かしら」

「お母さん足元に気を付けて・・・」

二人が馬車から降りると、大きな玄関先では大勢の人々の笑顔が迎えた。

 

「おかえりなさいませ~」「おかえりなさーーい」大人や子供たちの声が

あちらこちらから響き渡る。

 

ロッテンマイヤーの姿もみえる。

咳ばらいを一つしてロッテンマイヤーは、いつものように落ち着いた様子で

お出迎えの挨拶をした。

「奥様、旦那様おかえりなさいませ。遠いところお疲れになったでしょう。」

 

「やぁ~ロッテンマイヤーさん、そちらこそいろいろ忙しくさせて申し訳ない」

「クララは2階かな?」

ゼーゼマンは、急ぎ足で階段を上っていく。

ロッテンマイヤーは、やれやれといった両手を小さく広げるゼスチャーをし

小さなため息をひとつついた。

 

 

「あらあら、皆さんどうも。お集まりいただいてありがとうございます」

おばあさまは、みんなに一人一人に丁寧に声をかけた。

街の人々は、奥さまに深く頭を下げ、感謝の言葉を伝えた。

「このパーティのおかげでどんなに助かっているか」

「子供たちも毎月楽しみにしていて普段の笑顔も増えました。」

おばあさまは、ひとりひとりのそんな声に耳をかたむけて歩いた。

 

 

「クーーーララーーーァァーーただいまぁーーー」

「パパーーーーおかえりなさいー遅かったのねーーー会いたかったわー」

 

ゼーゼーマンは、大きく両手を広げ、クララを思いっきり抱きしめた。

 

「バザーを開いてたのよ。見て?これもあれも私が手作りしたものよ」

「小さくなった服を売ってるの。とても街の人に喜ばれてるのよ」

 

明るい笑顔でまくしたてるように話すクララ。

久しぶりに帰ってきた父親に話すことが次々と止まらない。

 

「すばらしいじゃないか。クララ。自分で考えたんだね?」

「成長したものだ・・・。それもあのスイスから来た

ハイジがきっとこうもクララを変えてくれた・・・」

「感謝してもしきれない・・・」

 

 

「ぱぱ。私歩く練習も毎日してるのよ。だいぶ歩けるようになったわ。」

「まだ松葉づえは、必要だけど。」

「早くまたハイジの山へ遊びに行きたいわ」

 

おばあさまが遅れて部屋に入ってきた。

 

 

「まぁまぁ。大きな声でお部屋の外まで元気な声が聞こえてるわ」

おほほほほほほほほ

 

「おばあさまー!いらっしゃい。馬車の長旅疲れたでしょ」

「こちらへ座ってください」

 

「そんなことより顔を見せてちょうだい。まぁまぁ元気な肌艶のいいお顔だこと」

「食事はちゃんと食べてるの?まぁお洋服やお帽子がいっぱい・・・」

「そう、もうこれもサイズが合わなくなっちゃったのね。おほほほほ。」

「あんなに小さかった子が・・・」

「おや?これは、人形かしら?クララが作ったの?まぁまぁ上手だこと」

 

後ろで咳払いが聞こえ、ロッテンマイヤーがさっきからいたことに気づいた。

 

「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」

ロッテンマイヤーが、もう一度、改めて挨拶をした。

 

「あぁ。ロッテンマイヤーさん、いつも娘がお世話になってるね。ありがとう」

ゼーゼマンは、ロッテンマイヤーの手をとりお礼を言った。

 

「とんでもございません、これもわたくしめの役目でして・・・」

「ただ・・・旦那様、毎月こういったパーティを街の人たちをも巻き込んでやるのは

どうしたものかと・・・お嬢様がどうしてもとおっしゃって・・・・」

「召使たちも大変なのでございます。片づけや準備など・・・」

「とても人手が足りないのでございます」

 

 

「本当に毎月、ごくろうさまです。街の人たちもあんなに喜んでいるじゃない。」

「とてもいいことをしていると自信を持っていいのですよ、ロッテンマイヤーさん」

落ち着いたとても気品のある声で説得するように話をするおばあさま。

 

「はぁ・・・そうでございますか・・・奥様・・・。」

 

ロッテンマイヤーの顔色は、だんだんと青白く病人のようになっていた。

頭に手をあて、これ以上何を言っても無駄だと悟った。

 

クララの車椅子がキュルキュルルっと音を立て、ロッテンマイヤーさんの方へ向いた。

 

「あら。ロッテンマイヤーさん、このパーティは、とても楽しいわ。」

「私毎月とっても楽しみなのよ。毎日がずっとたいくつだったんですもの」

「月に1回この日がくるために準備をするの。お人形を作ったり、帽子や靴の値段を考えたり。」

「お部屋の飾りつけだって楽しいわ。」

「以前より歩けるようになって、こういう準備が一人でできるんですものっ!」

「片付けなら私も手伝ってます」「いいえ、もっと頑張ってお手伝いします」

 

「だから・・パーティを中止にするなんておっしゃらないで・・・」

 

生き生きと話すクララにゼーゼマンは、感動の表情を隠せないでいた。

 

 

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