召使いのチネッテ~

 

このお屋敷に来て10年近くになる。

過去に両親を早くに亡くしたチネッテは、10代の頃から働きに出ていた。

 

そんな時、人の紹介で、このゼーゼマン家の召使いの仕事の話が舞い込んだ。

以前働いていたところよりも条件がよかったのと花嫁修業にいいだろうと

前の職場のおばさんにも言われ務めることに決めたのだ。

 

毎日、真面目に黙々と働いた。ロッテンマイヤー女史の指導が厳しかったが、

給料のことを考えるとひたすら我慢をした。

そう、我慢の日々だった・・・。セバスチャンが愚痴を聞いてくれたことだけが救いだった。

 

セバスチャンもまたロッテンマイヤー女史のことは、苦手だった。

 

 

仕事が慣れてくると平凡で退屈で、毎日同じことの繰り返しで

ストレスの毎日だったチネッテ。

 

そんなチネッテにもやっと春が来たのだ。

 

チネッテ自身、あのパーティからずいぶん様子が変わった。

それは、セバスチャンが一番そばで見ていて気がついていた。

 

 

 

「セバスチャンどうしたの?なにか考え事かしら?」

 

「あぁ。クララお嬢様。いや、そのチネッテのことなんですが・・・」

 

最近チネッテの言葉遣いや動きまでもが今までとは180度変わり

なにか心境の変化があったのかと心配だという。

 

さらに妙に気を遣うようになったり、セバスチャンの体の心配や

ため息を頻繁についているという。

今までにはなかったことが急に起こり始めたというのだ。

 

一番びっくりしたのは、愚痴を一切、言わなくなったということだ。

 

クララは、セバスチャンの話を聞きながらくすくすと笑いながら答えた。

 

「ふふふ、セバスチャン、それは、きっと恋をしているからだわ。」

「いいことじゃない。見た目も明るくなって、見ていて気持ちがいいわ」

「きっとあのピエロの大道芸人さんよ。楽しそうに一緒にタンバリンで

踊っていたじゃない。あんな楽しそうな表情で笑うチネッテを

びっくりしたし、私もはじめて見たわ。」

 

「えっ!?あのチネッテが、恋・・・・。まさか・・・・w」

セバスチャは、クララのいう事が信じられなかった。

 

 

 

 

一方、チネッテは、迷っていた。

でも決断しなければいけないことは、わかっていた。

 

あの日を境に世界が変わった気がしてしょうがなかったのだ。

 

 

あんなに楽しく踊れたことに自分が一番びっくりしていた。

軽快な音楽とともに体が勝手に動いた。

いつもまにか二人の周りに人だかりができ、1階のロビーは、大盛況だった。

 

タンバリンの使い方もあのピエロにとても褒められたのだ。

才能があるとまで・・・。

 

そして、踊り終わった後、

チネッテは、あの大道芸人の男から交際を申し込まれた。

 

「楽しい時間をありがとう。前に踊りをやっていたのかい?」

「またぜひご一緒できる日が、来ますように・・・。」

 

大道芸人の男は、そう言った後、チネッテの耳元でささやいた。

 

「いつも何時に仕事は終わるのかい?」

「さっきのおいしい水とタンバリンで踊ってくれたお礼がしたいんだ」

 

チネッテは、いきなり耳元でささやかれ、ドキドキした。

こんな気持ちになったのは初めてだった。

 

 

あれからもう1週間が経つ。

 

朝の陽ざしがまぶしい中、窓辺で拭き掃除をしていたチネッテは、

さっきから全然手が動いていない。

何度もため息をついていた。

 

「あぁ、太陽の光がこんなに心地いいなんて・・・」

「鳥のさえずりがこの灰色のフランクフルトに彩りを・・・」

と詩人にでもなりそうになっていたチネッテ。

 

あの大道芸人ピエロが言った数々の言葉を何度もくりかえし思い出しては

たまに笑ったり窓の外を見て詩人になったり、顔を赤らめたりと

チネッテの心の中は、忙しかった。そんな自分が心地よく

しばしばうっとり夢心地に浸っていた。

 

ため息ばかりつくチネッテはセバスチャンに

具合でも悪いのかとか熱でもあるんじゃないかと心配されることもたびたびあった。

 

 

 

最近では仕事が終わると毎日のようにお屋敷の前に

あの大道芸人の彼が迎えに来てくれている。

 

「今日のデートは、どこへ連れて行ってくれるのかしら。こないだのカフェの

ケーキは美味しかったわ。あんな風に男の人と過ごす日がくるなんて・・・」

 

チネッテは、今度会う時の会話を想像していた。

 

そんな夢のような妄想の中、突然、かきけされるように

けたたましいロッテンマイヤーの声が響いた。

 

「チネッテ!!んまぁーー何をさっきからぼーっとしているのです!

掃除の手が止まってますよ」

 

ロッテンマイヤーは、両手をパンパンと叩きながら言った。

 

「んまぁーーまだ窓ガラスの掃除も終わっていないの?もうすぐ家庭教師の先生がお見えになるというのにまったく・・・早くなさい!!」

 

ロッテンマイヤーは、メガネを直しながらチネッテを叱った。

 

 

チネッテは、一瞬はっとしたような表情をし、急いで手を動かした。

急に現実に戻されたチネッテは、今度は、大きくもう一度

さっきとは違うため息をついた。

 

 

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