タイトル︰「Emulsification
アーティスト︰FIVE NEW OLD


Emulsification(初回生産限定盤)

 

2023年の4月頃FIVE NEW OLDは1st album「Too Much Is Never Enough」のリリース5周年を記念して、再現ライブを敢行
当時FiNOを知らなかった方にとっては待望、その頃からFiNOをおっていた方に方には懐かしいライブになったと思われます

それから1年半近く
FiNOは再び再現ライブの開催を発表
今回再現されるのは、FiNOにとって大きな転機になったであろう「Emulsificatin」
直訳すると「乳化」であり、水と油のように本来は混ざり合わないものでも、ある触媒を1つ入れることで互いが溶け合う「安定していないものを安定させるための媒介操作」のことを意味するタイトルですが、実際「Too Much Is Never Enough」と比較すると大きな変化が現れた作品だと思います

実際この「Emulsification」の中から、今でもライブで演奏されている曲が多く、SHUNがバッキバキのベースを鳴らす「Fast Car」は「Emulsification」のオープニング
「Too Much Is Never Enough」はR&Bやヒップホップの影響を受けた曲が多く、ブラックミュージック色が濃い印象を受けましたがEmulsification

は「Too Much Is Never Enough」よりも音楽性が広がった1枚

先行シングルでその予兆はで出ていましたが、

「Always the darkest before the dawn.
And then remember that you are not alone.」

といった前衛姿勢が見て取れる「Keep On Marching」は民族的かつゴスペルの要素が入ってきたりと明らかに外に開いていってますし、LUCKY TAPESのTakahashiが制作に携わった「Magic」は鍵盤から流暢なメロが奏でられたりかなり親しみやすくなった印象です

いわゆるブラックミュージックを軸としているアーティストはメロディーが弱い
このブログでは度々書いてきたことでありますが、ブラックミュージックで中心に置くのはリズム
海外のR&Bを聞いたらなおさら分かりますが、踊らせることを主体にしているので印象的なメロディーが鳴らされなくなってしまいます

でもFiNOは別
元々パンクバンドだからメロディーは強い
その長所がこのアルバムではより出てくるようになった
そんな印象です

そのパンクバンドだった経験は「What's Gonna Be?」にも取り入れられ、リズムこそR&Bのものでありながらビートはパンク
パンクからブラックミュージックを基調とするバンドに転向したからこそ出来る技ですし、

「We won't stop and keep on trying

Trying trying」


は今のFiNOにも通じるようなフレーズですが、「Emulsification」で特に印象的なのは「In/Out」
ほぼ全てのアンサンブルからセンチメンタルな気分にさせる音色を刻んているのです
1度生で聞いたことがありましたが、そのスケールはとてつもないものでした
「In/Out」のスケールはとんでもないものです

鍵盤と16分のビートを中心にジャズテイストな雰囲気を出しつつ、途中で挿入されるブルージーなギターソロが大きく雰囲気を変える「Last Goodbye」、スラップベースを軸としたファンキーなベースラインにカッティングギターが絶妙に絡む「Pinball(ちなみにこれ、REBECCAの是永巧一がレコーディングで参加しているとのことです)」とダンサブルな曲が続く一方、「Same Old Thing」は序盤こそジャクソン5のようなモータウンビートが曲の屋台骨

ですが後半からは山下達郎の「スパークル」を連想させるようなアンサンブルに
音源だとアウトロのセッションが始まったところで少しずつフィードアウトしてしまいますが、このセッションも含めて自分は1曲と思っています
ライブでやる際はそこまで行っていただきたいです

そのうえで「Set Me Free」はジャズを連想させるようなアンサンブルの上に、HIROSHIの伸びやかな歌声が乗っていくバラード
途中からHIROSHIの歌声も力強くなっていきますが、「Emulsification」の中でかなり重要だと思うのは、「Gotta Find A Light」
鍵盤が見せる流暢なメロディーやダンサブルなアンサンブルは心を弾ませるものですが、なんと言っても日本語詞
今では普通に日本語詞を入れるようになりましたが、日本語詞が入ったのはこれが初なはず(「liberty」の日本語歌詞は踊Foot Works側が手かげたものだったはずです)
ここから日本語詞が少しずつ増えますが、日本語詞も取り入れられるようになった分岐点としてこの曲は重要なのです
これがなければ現在の日本語詞が無い可能性ありますから

鍵盤が奏でる美メロにじっくりと身体を委ねてしまうほどに美しい「Always On My Mind」、暖かみあるギターの音色と共にリスナーの存在を強く求める「Please Please Please」と終盤の曲はメロディアスな曲多め
それは安定しなかったものが安定するようになりつつと言う事も指しているように見え、ラスト「Bad Behavior」がプログレとラテンが混ざりあったアップテンポな曲調なのは、安定するようになったと言う事かもしれません

FiNOはこの「Emulsification」をリリースしたあと、レコード会社を現在のワーナーミュージックに映すことになり、あの傑作「MUSIC WARDROBE」をリリースすることになります
そこでは歌謡曲によりながらもリズムはヒップホップだったり、日本語詞が増えたりと大きな変化が生じることになるわけですが、それはこの「Emulsification」で方向性が変わりつつあったからでしょう
「Emulsification」はFiNOにとっての分岐点だった
自分はそう思います

ちなみにフィジカルの方にはボーナストラックとして「PUNK」が収録

CDでしか聞けないパンクロックも是非