『みんなが習っているから』。

という理由だけで、親にピアノを買わせた私は、大バカものです。

ピアノが教えてくれたこと。それは、私には音楽の才能がまるで無いということです。

家のはす向かいにピアノ教室がありました。お家の一室が、教室になっていました。

ピアノを習っていた『みんな』は、通ううち確実に上達し、テキストも上級のものを学ぶようになっていきました。

私は練習なんて大キライ。それなのにテレビのクラシック・コンサートに出てくるような、ピアニストのドレスに憧れていました。

裾を踏んでしまいそうなロングドレスでお客様に向かってお辞儀をしてみたい。

家に誰もいない時、私はピアノの前でスカートの両脇をつまみ、ゆっくりとお辞儀の練習を何度もしました。

私はピアノを弾きたかったんじゃない、華やかなドレスを着てお客様の前でピアノに酔ってみたかったのです。

ドレスの夢は、半ば叶いました。発表会の時、母がワンピースを縫ってくれたのです。

藤色の地に、裾から花が伸びているような柄でした。

発表会の舞台中央には、ハローキティの柄のテープで床を四角くふちどってありました。その四角の中でお辞儀をする、というものでした。

何度も練習した『すみれ』。緊張はしましたが何とか弾き終りました。

いつか発表してみたかった曲は『ラデッキー・マーチ』。手が小さくて1オクターブ届かない私にはとても無理な課題で、そのせいで余計、魅力的でした。

『亜麻色の髪の乙女』なんてタイトルもいいな。

上級の子たちのように、プログラムの最後の方にいつか載ってみたいと想像しました。