あまりにも有名になった「君の膵臓をたべたい」の住野よるさんの作品。どうしてもメジャーになった作品には食指が動かなくて、タイトルで惹かれたこちらを読んでみた。

 

うん、これ、主人公がとっても日本人っぽい。長いものに巻かれて、周囲に会わせ、自分を押し込めて、心が磨耗していく感じが、感覚的に描かれている。

 

大人の場合は何だかんだと根底の部分は把握されている(←いや、最近の大人でも理解してない人が多いか?)ので、描き方がもっとストレートになるだろうけれども、主人公は、まだ、子供に類される年齢。だから、あやふやな気持ちを自分で理解しきれず、もやもやとした状態で日々を過ごしている。

 

その感覚を「化け物」の黒い粒で現しているのかな。心の揺れでざわめく黒い粒。昼間の心の揺れは敢えて感じ取らないようにしている主人公の貯まった揺れが「化け物」の黒い粒。夜、本来の自分を解き放った時に、その揺れが戻ってきたのが、「化け物」としての身体を構築しているのではないだろうか。

 

これが、現実だと「不眠」であったり「身体の変調」であったり「精神の変調」であったりする。大人であればこう考えてしまう。でも、これが子供あれば、そういった比喩的表現が「化け物」であることが非常に有効的に効いてくる気がする。それだけ、作品の描写は感覚的であるとも言える。感覚的であるために、感じ方は恐らくリアルだ。

 

いじめの心理は主人公の感じる「周囲に併せる」といった行動。自分が標的になるのを逃れるためでもあり、友達をなくさないために取らなければいけない行動なのだ。しかし、それは自分の本心を殺してまで取らなければいけない行動なのか。

 

言いたいことはこの点なのだと思うが、自分の本心をさらけ出すには多大な勇気が必要だ。この作品には勇気を出してとまでは行かないまでも、本心をさらけ出すといった一歩までしか描かれていない。後はどうなるかというのは読んだ人に任されている。ここで終わらたのはベストだと個人的には思う。それぞれの回答はそれぞれで決める。現実を見据えるよう強いて退いているは、現実での我々に問題提議をしているのだろうと感じた。

 

面白いかと問われれば「面白くはない」が、とても「考える事ができる」作品ではあると思う。

 

この作家はネット小説サイト「小説家になろう」出身。異世界転生モノが乱立しているサイトでこういった話を書く作家がいたという事実は少し安心する要素。また、そういう書き手を見つけた編集者がいたというのも、出版界にまだしっかりした編集の目が残っているといった事実を垣間見れた。