どちらかというと、私が魚を好きになったのは、

60年代の、おそらく当時としては、

最先端の、学術展示が多かった、

旧神戸市立須磨水族館に通い詰めたことが大きく、

水産学,魚類学に携わっていた時代、

専門分野が自然相手であることは承知していながら、

インドア派であった自覚はあります

 

そのことがあるのかもしれません

野外調査でも、

選んだ分野もあり、危険生物に遭遇する機会も、

全くありませんでしたし、

水圏で有毒生物に害を受けたのは、

子どもの頃、淡路島の海水浴場で、

ハオコゼ(カサゴ目(暫定的)ハオコゼ科)

に刺されたくらいです

 

ちなみにカサゴ目(カジカ目とも)が暫定的というのは、

多系統可能性高く、将来分解・再分類されるのが確実視されていながら、

現在のところ包括的な分類群の提唱がなく、

定義しようがないという意味です(閑話休題)

 

そのハオコゼの痛みは、まだ序の口と聞き、

カサゴ類の中でも、とりわけ多くの危険な毒魚の揃う、

オニカサゴ科(近年フサカサゴ科から独立)には、

海に入るたび、

もしかしたら刺されるのではないかと、

恐怖を感じます

 

カサゴ目で最も美味とも言われるオニカサゴをはじめ、

オニカサゴ科には美味な有用魚が多いのですが、

一方ですべての種に、有毒の棘があるという、

恐ろしい特徴があります

 

まだ研究があまり進んでいないようで、

複数の、タンパク質である神経毒を、

それぞれが同時に備えているという以外、

カサゴ類の刺毒は、調べても良く分りません

 

その中で、最も毒性が強くで、死亡例もたびたび報告され、

最凶と怖れられているのが、

オニダルマオコゼです

 

オニダルマオコゼは南日本-西部太平洋-インド洋に広く分布し、

岩礁やサンゴ礁域の、岩場や砂底域に生息します

アンコウに似た体型で、

ゴツゴツした外見が、

岩の擬態になっており、

英名Stonefishそのものです

うっかり気づかず手や足で押え付けると、

ゴム靴も貫通する太く鋭い背鰭の毒棘から、

大量の魚毒が注込まれます

普段じっと動かないながら、

毒針で刺す動きは俊敏とのこと

 

オニオコゼ科魚類では珍しく、

オニダルマオコゼは刺毒の主成分が判明しており、

タンパク質神経毒の、

ストナストキシンという、猛毒です

 

このストナストキシン、

調べてもオニダルマオコゼ以外からの報告はなく、

また一方、ネットで検索しても、

化学毒性や成分の、詳しい情報が出てきません

ハブ毒の30倍の強毒で、

1尾で成人3-4人の致死量と伝える記事は多いのですが、

その出典も分らず、みな孫引きのようです

そもそもどのような毒物なのかさえ、

良く分りません

 

一応、オコゼ類一般で言われる、

ファーストエイド(緊急時にまず行なうべき作業)と同じく、

タンパク毒のため高温で分解し易く、

患部を切開し海水中で毒を絞り出し、

43-45℃の湯に数十分漬けると、

痛みが和らぐと言われています

しかしオニダルマオコゼは、それどころでなく、

激痛で失神し、そのまま、

十数㎝の水深でも溺死することがあるとのこと

 

オニダルマオコゼの生息域は広いので、

出来るだけ単独で水に入らず、

また、刺されたらすぐ陸に引上げ、

一瞬でも早く、医療機関にかかるしかないと言えます

 

漁獲量は多くないながら、

個体数の多い南西諸島では普通に漁獲され、

淡泊な白身魚の高級魚として、

利用されているとのこと

熟練の漁業者なら扱いは簡単なのかもしれませんが、

改めて、漁師さんとは、

一寸の気の緩みが取返しのつかない事故につながる、

過酷で危険な仕事であることを思います

 

サメ類やハブクラゲ、カツオノエボシも、死亡例のある、

南の海で危険な生物ですが、

それ以上に、ダイビングでも、遊漁でも、

絶対に無理に触ってはいけない、超弩級の、

危険生物です(2023.8)