魚の話と言いますか、生物分類学の欠陥というか、

科学の一面、面倒臭さのある話です

 

昔、先輩から「アオカマス」という、「幻」の魚の話を聞きました

学名をつける基準とする標本は、模式標本と言います

分類学の祖であるリンネ以来の「二名法」という分類法によって、

地上の全ての生物種を区別して記録するためには、

欠かせない重要な存在です

 

日本の固有な動物のかなりの標本は、

幕末、19世紀後半に、シーボルトが採集し、

標本をオランダ・ライデンの自然史博物館に送り、学名がつけられました

ニホンオオカミ,ニホンカワウソ,二ホンアシカ等、

絶滅または疑いの生物の模式標本も、大部分ライデンにあります

 

その日本の生物種の標本の中にいくつか、

日本画の生物図があります

シーボルトが標本を送れなかった種は、

絵画を元に学名がつけられました

お抱えの日本画家の正確な描写が、

当時としては厳格な、学名命名規約に合格したそうです

 

ただその中で、

アオカマス(アジ類カマス科,スズキ目から移動の可能性大)は、

どうしてもその特徴にあった魚が見つかりません

九州を中心に、

ヤマトカマスの方言として、

アオカマスと呼ばれることはありますが、

日本画の特徴は、かなり違うとのことです

 

ヤマトカマスは、おそらく中国産の標本を元に、

ドイツの学者が19世紀初頭に、

新種として学名をつけていました

アオカマス模式標本となった絵は、

どうやら噂を元に、

画家が近縁種を用いて想像画を書いたと推測されます

 

そのような種も、

該当する実在の個体を採集できれば、

それを新たに模式標本に指定出来ますが、

実在しないだろう種は、

新たに標本標本が採れない以上、間違いを証明できません

「悪魔の証明」という矛盾に陥ってしまった例だそうです

 

科学の世界では、「存在しないこと」を完全に証明するのは、

ほぼ不可能です

将来、異例でも見つかる可能性を、

誰も完全否定できないからです

 

これは例えば新薬開発でも、

特定の副作用・副反応がないことを完全に証明するのはまず無理で、

資料を集め、統計的に解析し、

行政が定めた副作用発症の確率の基準以下だけを、

「安心」として承認することしか出来ないことともつながります

 

新薬開発に、

沢山の被験者と時間が必要な理由です(2020.6)