猫でも人でも、性別は男と女
だと思ってるのは多いかもしれないけど、
そんなの誰が決めたのさ。
だいたい、猫は人に飼われていたら
避妊去勢しゅじゅつとか、よくわかんないうちに済まされちゃうんだから。

私はもうお腹から赤ん坊を出すことはないわ。
前にそんなことがあったかは、わからない。
ちょっと時間の過ぎたことは忘れていいって
神様が思ったら、忘れちゃうものよ。
大事なことは、今この瞬間。
それもわかる範囲でわかってりゃいいの。

心に残るものだってあるわ。
前のお家の人間は優しかった。
そのあとのセンターっていうところも、嫌じゃなかった。他の猫はやかましかったけど。
それでも、移動!とどこかで決まれば、私は
違うところで暮らすことになるみたい。
だいたい、預かり知らぬところで突然、
そういうことは決まって降りてくる。
抵抗できるものじゃないなら、
受け入れるしかないわよね。
あとは、そこのいいところで
頭をいっぱいにすること。
人間にそんな真似ができるのかしら。

今はちょっとさみしがり屋のお兄ちゃんと、
私はコンビを組んでる。私がいないと
てんで駄目なくせに、時々留守にするのよ。
口うるさい母親にごちゃごちゃ言われたら、
決まって私のところに来るわ。
私の耳を掻いていて忙しいから、その話
聞く暇ない、ってことみたい。
とにかく優しいんだけど、人間の世の中で
器用なタイプには見えないわ。
いいとこあると、私は思うけどね。

私の家には、もう一匹それはそれは面倒くさい
やたら元気な猫がいるのよ。それが芹緒。
多分私のことが好きなんだけど、
まぁ馬鹿でね。
いつまでも手こずらせてやるつもり。
さっきの母親は
「やっぱり猫も男女は
なかなかわかりあえないわね」なんて
知ったような口きいてるけど、
あんたに男女を語る資格はとうていないと
思うわ。私の芯は元から強いの。
あっちだって、しゅじゅつ済みの雄猫。
これはホルモンと個性のミックス問題。
育ちも血筋も、影を落とすような
それでいて関係ないような。
でも、人もいろいろ猫もいろいろで
結構暮らしていかれるものだと思う。
選り好みしないわよ。睨みはきかせても。

私の声がかわいいと言うなら、喜ぶ
おやつをしきりに持ってくることね。
綺麗に食べてあげるから。




#光穂の見る先に