味わい堂々が10年続いて来たというバックボーンが芝居に説得力を与え、観終わった後に「こいつは一本取られたなあ」と思わず唸ってしまうこの感じ…まさしく【演劇】です。久しぶりに拍手に力が入ります。
帰り道、あの池袋がなかなか綺麗な街並みとして目に入り込んでくるというのも、けっこうすごいことでした。
『インサイド ヘッド』観てきました。
言わずと知れたピクサー製作のアニメーション映画。
もしかすると、いわゆる「大人が観るに堪え得る子供向け映画」というよりは、「子供が観るに堪え得る大人向け映画」という感じが強いのかもしれない。
劇中主人公に起こっていることは、子供たちのタイムリーな共感よりも、かつて子供だった大人たちが、自分の影を思わず投影してしまう部分のほうが大きいのではないだろうか。みんな何かを失くすことで新しい世界を切り開き、今のこの場所にやって来たんだなあ。
でもそれがことさら啓蒙っぽくなっていないのがピクサーのピクサーたる所以でしょうね。ユーモアをちりばめたり、尖った部分を上手くまとめてデフォルメ化することで、みんなが飲み込みやすくしている。ちっとも推しつけがましくない。
映画は「大作」というよりも「質の良い小品」という風で、そういうのも感じがいいですよね。
ついでに最近観た映画考をいくつか。
まずジャン・レノ主演の仏製作映画『クリムゾン・リバー』
猟奇殺人から始まるサスペンスなのだけれど、全体的にどこか大味であらの目立つ印象が否めない。せっかくの薄暗く閉鎖的な村社会や、広大な雪山といったロケーションも活かせているとは言い難いし。相棒役となる刑事との絡みもどうも上滑りな感じで、バディ・フィルムとしても出来がいいとは言えない。ピリオドの打ち方もどことなく物足りない。
同じくジャン・レノ主演の『レオン』は、これとは打って変わって良作。観客や批評家の評判もとても好意的だったみたいだし、映画専門チャンネルなんかでも繰り返し放映されていますね。僕も大好き。
全体的なトーンが落ち着いていて、筋も概ねきちんとしていて、俳優も良かった。ジャン・レノの好演、ゲイリー・オールドマンの怪演。そしてサスペンスシーンの緊張感、アクションシーンのドライヴ感、ドラマ部分の丁寧な構成、この頃のリュック・ベッソン監督は本当に神がかっていたんだなと改めて感動させられます。ヴィジュアリストっていうのかな。映画の映画的な美しさを画面上にきちん滲み出させている。
でもなんといっても『レオン』のMVPはマチルダ役のナタリー・ポートマンだ。あまりにも繊細で切れ味が鋭くて、1994年(だったかな?)のナタリーは宿命的におかっぱ頭が似合ってましたね。このときの彼女が持つ存在感というのは、人生のうちの決められたあるほんの一瞬にしか訪れない、とても限定的な、それだけにあまりにもまばゆく儚く美しい揺らめきなのでしょう。
さてリュック・ベッソン監督つながりで『ルーシー』
こちらはスカーレット・ヨハンソン主演。
アベンジャーズのブラック・ウィドウのイメージが強い彼女だけれど、とにかく気丈で下品で野蛮なのにとても女っぽいのが素敵ですね。リュック・ベッソン監督の作品でその昔(というほど昔でもないけれど)よく出演していたミラ・ジョボヴィッチとどことなく通じるものを感じる。でも女優としてはこちらのほうが肉感的。
映画の内容そのものは「SF的アイデアの映画化」といった具合で、これはこれで見応えはないこともないのだけれど、特別な驚きや哲学やパワーは不足気味。
SFつながりで『トランセンデンス』
ジョニー・デップ演じる科学者が、自分の情報をネット上のコンピューターにダウンロードするのだけれど、もちろん次第にトルブルの種が……といった内容。ストーリーの筋を聞いただけでどのような災害が降りかかるのか想像できてしまうのだけれど、まあ大体想像通りのストーリーが描かれます。
この映画は後半「SF」というより「ゾンビ」映画的な趣向が強かった。でもよく考えてみたら近年では「ゾンビ」もそのメカニズムを科学的に説明していくことで「SF」のなかに取り入れていくホラー作品が増えてきてはいるんですよね。「バイオハザード」シリーズとか。
同じくジョニー・デップがW主演を努める『ローン・レンジャー』もさっき観ました。
『ローン・レンジャー』自体はきちんとした原作があって、過去色々なパターンで映像化されている。ジョニー・デップが出演したのは2013年(多分)の映画。
脚本は大味。登場人物の心理描写はおざなり。たちの悪いジョークは人によって好き嫌いが分かれるだろう。(僕はけっこう好き)
ジョニー・デップの演じたトント役は、確かに彼の質感がぴたりとハマッてはいて、スーパーナチュラルと愛嬌を兼ね備えたキャラクターは味があるとも言えるのだけれど、それだけに映画のトーンがあの海賊映画に似通ってしまった感は否めないように思う。
いくつかの部門でゴールデンラズベリー賞にノミネートされたみたいだけれど、それはおそらく半分くらい話題性のなせるわざなのでしょう。ウィリアム・テル序曲をバックにしたオーラスは、多少冗長のきらいはあれど、きちんとばかばかしくって僕はけっこう好きでした。でもまあ暗く静まり返った映画館で字幕の画面を集中してじっと見据えるよりは、うちでビールでも片手に吹替え版をへらへら観ているのに向いているかもしれませんね。
といった具合で、最近はどちらかというと賑やかで簡単に観られる大衆映画ばかり観ています。多分そういう気分なのだ。
そのなかでも『インサイド ヘッド』はトータル的な完成度としては確実に頭一つ抜きん出ていた。この夏劇場で公開されている映画は話題作が多いみたいですが、そのなかでもこの作品は見応えも味わい深さも充分で、堂々と「エンターテイメント」を名乗っても問題ないんじゃないかなって思います。
それにしても映画館のポスターが地味というか、それほどジュブナイルでもないところに、この映画の内容が暗示されているように感じられます。考えすぎかな。
最後に、これは映画通でもなんでもない、ただの小市民の感想なので、参考とかにはそれほどしないでください。そうすることが平和への第一歩ですよね。