※若干のネタバレが

含まれるかもしれないです。

 

 

「関心領域(原題:The Zone of Interest.)」

この作品は絶対に観た方がいいと思う。

 

あまり映画の感想を書かないが、

今回は書いてみることにした。

 

 

あらすじを簡単に説明すると、

アウシュヴィッツ強制収容所の隣で

幸せに暮らす家族のお話。

 

収容所と家の境い目には

壁のようなものがあり、

お互い向こうで

今何をやっているのか

わからないといった状況だ。

 

本作の主人公は

ルドルフ・ヘスという収容所の所長。

 

 

半年頃前に話題になって

私も気になっており、

ようやく日本公開されたので

先日観に映画館へ。

 

 

朝イチの回だったが、

ほぼ満席なのは驚いた。

洋画でここまで入っているのを

ほとんど見た事がない。

邦画でも珍しいのではないだろうか。

週末動員ランキングの

洋画部門は1位とのことで頷ける。

 

 

ただし本作の公開館数は

少ない方だと思うので、

これから1館でも多くの

映画館で上映されることを祈る。

 

 

私はこれまでの人生で

ナチスや戦争を題材にした映画を

見たことがなかった。

 

 

作品とはいえ

実際に起こったことが

ベースとなっているので、

観ている途中で

どうしようもない気持ちに

なってしまいそうで、

その上集中できるか不安だったからだ。

 

 

だから本作は、

家と収容所の両方を映して

比較していくような

(映画作品:VORTEX)に近いイメージ)

ものだと思っていた。

 

 

しかし実際は大きく異なり、

今までに味わったことのない恐怖と

絶望がそこにはあった。

 

 

なんと物語の最初から最後まで

ほぼ0といっていいほど

収容所の映像が無いのだ。

 

 

収容所は全て音や

雰囲気で表現されており、

恐ろしいほどに

淡々と作品は進んでいく。 

 

壁やカメラワークは

絶対に収容所を見せないという

姿勢が伺える。

告知ポスターも

幸せな家しか載っておらず、

向こうには一面の黒景色。

 

特に音楽・音の部分が

脳を震撼させるぐらいに

おぞましかった。

また本作の上で音は重要だと思う。

 

 

家族が庭やプールで遊んでいる後ろで、

怒号や叫び声、

爆発音のようなものが聞こえ、

時折ユダヤ人を運んでいるかと思われる

蒸気機関車がうっすらと見える。

また、ヘスが大量に虐殺をしているで

あろうシーンはただただ

彼の表情を映しているだけだった。

 

 

そんな中でも

家族は平然と暮らしている。

 

 

まるで何も見えていないかのように。

 

 

見えているのかもしれないが

興味は全くないのだろう。

 

慣れてしまったのか、

恐ろしい音はもはや

彼らにとっては生活音でしかない。

 

 

ユダヤ人から奪い取った

服飾品を分けるシーンや、

ヘスの転勤が決まり、

家を離れるかもしれなくなった時の

妻の

「ここの生活が気に入っている」

「こどもの教育にはここがぴったり」

という発言を見聞きして、 

人間はここまで無意識の内に

残虐になってしまうのかと思うと

恐くて仕方がなかった。

 

私はたとえ

どんなに家が立派で広くても、

隣で残酷なことが起こっているような

土地でこどもを育てたいと一切思わないし、

できればすぐに引っ越したい

ぐらいまである。

 

 

その他にも

戦争ごっこや

「ヒトラー万歳」と言うこども、

ガス室に閉じ込めるような

仕草をする兄弟が映されていた。

 

 

ヘス一家にとってはこれらが

日常の一部

でしかなかったのかもしれない。

 

 

絶望ばかりではなく、

この作品唯一の希望があった。

それは、少女が収容所の中に

りんごを隠すシーンだ。

唯一、彼女だけが関心を持っており、

彼らに救いの手を

差し伸べているのだと感じた。

バレないようにこっそりと。

 

 

後に収容者同士が

りんごを奪い合うシーンがあった。

当然りんごを分ける余裕などない。

これだけでも過酷さが伝わってくる。

差し伸べる手があっても

争いは終わらないことを示しているのか…。

 

 

終盤付近で、

人が沢山いるパーティー会場を

見下ろしながら

「この部屋の人達をガスで

殺そうか考えていたけど

天井が広いから難しい」

と言っていたヘスが

なんだか気の毒でしかなかった。

 

 

身内(味方)を見てそう思ってしまうのは

職業病に似た何かなのか、

気が滅入っているのか、

もう何も関心を

持たなくなってしまったのか…。

 

 

現在、博物館となった収容所と

階段で嘔吐くヘスを交互に映す見せ方が、

過去と未来の示唆っぽくて壮観だった。

 

 

恥ずかしながら

勉強不足なところもあり、

難しいと感じる部分があった為、

ナチスについて詳しく調べてみて、

再度観に行きたいと思う。

 

 

メディアが発達して

情報の取捨選択を

自由にできるようになった今、

私は周りの現実から

目を背けてしまっていたように思える。

 

自分はヘス家になってはいないだろうか。

 

本作は実話を

語っているところもあるが、

1番は私たちの

関心領域

を覗きに、試しにきているのだと思う。

 

「これはあなたにも言えますよね?」

って作品から

訴えかけてきていた。

 

私は呆然と

EDを見ることしかできなかった。

 

無関心になった人の恐ろしさと、

いつか自分もみんなも

こうなってしまうのではないかと

憂鬱になった。

 

目の前の現実や

社会問題直面した時、

本作が頭の中に浮かび上がるであろう。

 

次は少しでも向き合えるように。