ステラおばあさんのクッキー | 短編愛好 -たんぺんアイス-

短編愛好 -たんぺんアイス-

掌編小説を書いたり、動画やお菓子を作ったり。
短編小説、ショートムービー、音楽、伊豆 etc

毎朝の電車通勤は、駅まで自転車を走らせる。


途中、必ず見かけるおばあさんがいた。


そのおばあさんの風貌ときたら、


……、


『ピンクハウス』というファッションブランドをご存じだろうか。


参考のために画像を載せておく。




Brologue+-pi 


この画像は、愛らしい異国の少女である。


ところが、毎朝見かけるそのおばあさんは、


老女のくせにこんな感じの可愛いファッションに身を包んでいた。


おまけに帽子までこの画像とそっくりな、つばの広い、


お花が付いた麦わら帽子。




 初めて見たときは無条件で二度見してしまった。


何かの間違いかと思ったが、


毎日見かけるし、毎日ピンクハウスなのだ。


ちょっと痛いお年寄りか、無類のピンクハウス好きか、


古き良きアーリーアメリカンマニアか、


もしかしたら大きなお屋敷に住んでる外国帰りの貴婦人か。


いろいろなことを想像しているうちに、


私はそのおばあさんに『ステラおばあさん』とあだ名をつけていた。


ステラおばさんのクッキーのイラストと何となくかぶったからだ。


昔の『カントリーマアム』のCMに出てきたマアム風だったりもするが、


マアムではなくおばさん。おばさんではなくおばあさん、


日々すれ違う結果、自分的にはそんな愛称に落ち着いた。



 ステラおばあさん、今日は淡いピンク色の、


小花の柄のフリフリロングワンピース。


その上に白いフリルのエプロンをつけている。


まさしく『ステラおばあさん』。


おいしいクッキーを焼いてくれそうだった。


自転車からステラおばあさんを横目に見ながら、


カントリーマアムが食べたくなって駅の売店で買った。



 仕事が終わり、駅に着き、自転車に乗り帰り道を急ぐ。


と、何やら人だかり。


一軒の古い平屋の借家の前に、消防車と救急車が1台。


自転車を押し、野次馬たちの声に耳を澄ます。


「魚を焼いてたらしいわよ…」


「認知症だって…」


「火をつけたのを忘れて…」


まとめると


「借家住まいのひとり暮らしの認知症のお年寄りが魚を焼いていたが、


途中でエステの勧誘の電話がかかってきた。


耳が遠いので長話になってしまい、グリルから火が上がった」


らしい。


幸いボヤで済んだらしいが。



家主らしきお年寄りが消防隊員にペコペコと頭を下げていた。


遠目からでもわかるあの風貌。


頭を下げていたのは、紛れもなく毎朝見かけるステラおばあさんだった。


ステラおばあさんはクッキーではなく魚を焼いていた。


現代の物語の落ちなんてこんなものだ。


けれどなぜあのファッションなのかは、


薄々は気付いてはいるが、


謎のままにしておくことにする。


あまり現実は見たくないので。


 fin