ケイトとハグをして大通りで別れた。まだ帰るには少し早い金曜の夜。周りには明かりがきらめき、汚い歩道もあまり気にならない。


意外なことにバスはすぐやってきた。一階の前の方に二つ空いている席があったので、窓際に座った。次のバス停で、何人か入ってきて、私の隣に男の人が腰掛けた。一番前の荷物を置く所には、女性が立って何故か沢山の印刷物が動かないよう、支えていた。


男が私の隣に座った瞬間、いやな感じがした。大抵こういう直感って当たるものだ。ゆっくりと彼の様子を顔を向けずにうかがった。少し汚くてどんよりした雰囲気を感じた。


奥の席に座ったことを後悔した。そう、教訓としてこれからもしナイトバスに乗るときには、いつでも逃げれるように通路側に座ろう・・・と暗くなっていた。


男:「君どこから来たの?」


顔を見ると、何だかクスリにおぼれてそうな、不気味な笑い。眉の所に傷がある。どうやってそんなとこ傷つけたんだろう。と考えてたら、いつもの仮の出身地は頭から出てこなかった。無視をするのにもリスクがある。


私:「日本。」


男:「こっちで働いてるの?中国人と結婚してるの?」


どこから「中国人と結婚してるの?」という発想は出てきたんだろう。これを繰り返すこと3回。こんなの初めてだ。どうしよう。適当な所で降りて別のバスに乗るかタクシーにかえたいけど、静かなところで降りてもつけられたら危ないし。前のほうで荷物を支えてる女性の方を見たら、彼女は「あなたの気持ち、わかるわよ」という女神様のような苦笑を向けてくれた。


私の運もつきないといいけど・・・。どうしよう。


もううんざりしかけていていたら、男が突然立ち上がり、運転手の方に行って、何やら罵り喧嘩を始めた。何の理由も無く。バスの乗客は皆、もうそんな男降ろせば良いのにという気分だったと思う。


前方の女神様のような女性が、私の隣に重い荷物を抱えながらも座ってくれた。「こうして欲しいだろうと思って」と、優しい笑顔で。不気味な男は、自分の席がなくなったことに気づいて、運転手の方に戻り、罵った後、バスを降りていった。


女神のような彼女は学校の先生で、郵送費を節約するために、こんな夜中に印刷所に出来上がった印刷物を自分の足で引き取りに行って帰るところだった。幸い近くに住んでいて、無事バスを降りていった。私も無事家路に着くことができた。


ケイトは大丈夫だろうか、と思って電話したら・・・・何とまだバスの中だった。なかなかバスが来なかったらしい。しかもすぐ近くで女の人の甲高い歌声が聞こえた。後で聞いたら、何とそれは歌声ではなくて、


女の人:「何てことしてくれたの!?あなたが私にエイズをくれたのよーーーー。最悪!!!!・・・」


という具合に、携帯電話で終始叫び続けていたらしいのです。隣に座っていた男の人も立ち上がり、彼女の周りには不思議な誰もいない空間ができたらしいのです。


ケイトも私も、別の角度からだけど、命について考えた夜。

リスク管理の大切さも感じた夜だった。

普通に安全なはずのブラックキャブに乗っていても、別の車がぶつけてきて救急車で病院に運ばれたこともあるケイトと私だが・・・。


今年も無事を祈りたい。


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