剣之助BD | 入居資格:0.1t

入居資格:0.1t

2006年に『月刊・俺の妹』としてラブレボ語りをしていたブログを、PSP版発売記念に復活。
主にキャラ語りや短編など妄想色の強いブログになります。
ジャンルは乙女ゲームとRPG。
現在のメインはストラバや声優の三浦祥朗さんです。

「あぁああああっ!!」
 どうしよう、数学の予習なんてしてる場合じゃなかった!
 私は被りかけた布団を蹴飛ばす勢いで起き上がり、頭を抱える。
「ど、どうした!? ヒトミ、無事なのかぁあ!!」
 静かに考え事をしたいのに、バットを握りしめて私の部屋に飛び込んでくるお兄ちゃん。
 確かに、夜中に叫び声をあげた私が悪いんだけど、何も武装して来なくても……。
「うん、大丈夫。ちょっとやり忘れた宿題を思い出しただけだから」
「そうか? 窓に変なヤツがいたとか、恐い夢を見たとかじゃないんだな?」
 「なんでもやっつけてやるぞ!」と笑顔でバットを肩に担ぐお兄ちゃんは、頼もしいというよりも今の時期と相まってちょっと暑苦しい。
「本当に大丈夫だから! おやすみなさいっ」
「え、ちょ……ヒトミぃい」
 ぐいぐいと部屋の外へお兄ちゃんを追い出して、私は溜め息を吐く。
 あれだけ過保護なお兄ちゃんに、本当の悩み事を言えるわけもない。
 ――6月30日、今日は橘くんの誕生日だ。
 ついこの間、偶然橘くんのヒミツを知った私。ちょっぴり仲良くなれた気がしてこの日にプレゼントを渡そうって思ってたのに、今はもう真夜中。
 同じマンションなんだから、明日の放課後にどこかへ寄って買うことも出来るけど、何を買うかだって決めていない。
(橘くんが好きそうなもの、もっとリサーチすれば良かった……)
 お小遣い日前日とあって、あまり高価な物は買えないけれど、なんとかプレゼントだけは渡したいのに。
 だけど、今まで誕生日プレゼントを渡したことがある男の人は、せいぜいお父さんとお兄ちゃん、透くんくらい。
 3人とも、私が誕生日を祝ってくれるだけで嬉しいなんて言ってくれるから、正直なところ喜ぶ物をプレゼント出来ていたのかはわからない。
「困ったなぁ……」
 使える物がいいかな、と考えては見たものの、ありきたりな物しか浮かばない。
 きっと明日は橘くんのファンの子もプレゼントするんだろうなと思うと、なんとなく負けたく無かった。
 私にしかプレゼント出来ない物ってないのかな?




 あくびを噛みしめる昼休み。風通しのいい中庭は、みんなに人気があるみたいで少し混雑している。
 梅雨の合間に晴れた青空は眩しいくらいで、私は眠気を追い払いながら午後のプランを確認していた。
(あれはなんとか出来たし……あとはマーブルであれとあれを……)
「キャーッ! 剣之助君見つけた!」
 まどろんでいた私の耳に響く、女の子たちの黄色い声。びっくりして顔を上げると、すでに女の子に取り囲まれた橘くんがいた。
(……学校にプレゼント持って来なくて良かったかも)
 取り囲んでいるのは、当然のように細くて可愛らしい女の子ばかり。
 4月からダイエットを始めた私には、到底太刀打ち出来るような相手じゃない。
(それなのに、負けたく無いなんて……ちょっと、図々しかったかな)
 橘くんとヒミツを共有できて、浮かれていたのかもしれない。
 誕生日を知った日は、お祝いしてあげようって思ってただけなのに、いつのまにこんな考えが自分の中にあったんだろう。
 もやもやするものを抱えながら、私は放課後まで待たずにマーブルへ向かうことにした。
 この時間、道を歩いているのはお昼休みの会社員か買い物に出かけている主婦くらいで、当然学制服を着ているのは私くらい。
 じっとりとした汗が滲む気温の中、わざわざのんびり歩く人もいなくて、誰も制服姿で歩いていることなんて気に止めてないみたいだ。
(買い物が終わったら、どこかで時間潰さないとお兄ちゃんに怒られるだろうな……)
 昨夜散々悩んだおかげで、買いたい物は決まっている。けれど、手早く買って帰ってしまえば、学校が終わる前に家へ着いてしまう。
 いくら街の人たちが自分を咎めないとは言え、お兄ちゃんとなれば話は別だろう。
 そんなことを考えながら、私は橘くんへのプレゼントと包装紙、それから自分用の水を買ってマンションの近くの公園へ向かうことにした。




「ゲッ!」
 聞き覚えのある声にベンチの方へ顔を向けると、そこには橘くんの姿。
「どうしたの? こんなところで」
「それはこっちのセリフ。先輩こそなんで」
 まさか、橘くんへのプレゼントを買った帰りだなんて言えなくて、私は咄嗟に手荷物を後ろに隠した。
「ちょっとね、買い物してたんだ。意外と早く終わっちゃったから、時間つぶしに」
 頭をかきながら笑って見せると、橘くんは脱力したような溜め息を吐いて、ベンチの背もたれにおもいっきりもたれた。
「よかった……先輩まで、ダチらみたいに俺を売る気かと……」
「橘くんを、売る?」
「その……今日、俺の誕生日なんスよ。それで、女どもから逃げ回ってんのに、アイツら……」
 今日1日中、相当走り回ったのだろう。苦々しく呟く顔は、どこか疲れているようにも見えた。
「そっか、おめでたい日なのにお疲れ様だね。でも、どうして逃げるの?」
「知らないヤツから物貰うなんて、先輩には出来ます?」
「うーん……あまりしたくないかもね」
 なんて同意してみたけれど、ホントの所は貰ってたんだよね。
 コンテストで優勝するたびにいろんなお菓子が家に届いて……でも、それを説明しようとすると、私が美少女コンテストで優勝してたことを言わなきゃいけない気がして、当たり障りのない返事で誤魔化した。
「そうだ、良かったらこれ飲んで。さっき買ったばかりだから、まだ冷えてるし」
 本当は自分で飲むつもりだったけど、今の橘くんは1人にしといたほうが良さそうだし……それに、うっかりプレゼントのことを話したら、めんどくさいって思われちゃうかもしれない。
「え、でも先輩は……」
「私は家に帰るよ。この時間なら誤魔化せるし、少し用事もあるから」
「……そう、なんスか。じゃあまた」
 ペコッと頭を下げる橘くんに手を振って、私はのんびりと遠回りしながら家に帰る。
 どうか、橘くんが受け取ってくれますように!




 全ての準備を終えて、私は103号室の前にいる。
 そんなに遅くない時間だし、訪ねても大丈夫だとは思うけど昼間の様子を見ると少し躊躇ってしまう。
(私は知ってる人だし、受け取ってくれるよね? でも、特別仲がいいかと言われると……うーん……でも…………えいっ!)
 迷いに迷って、ここまで来たんだしと勢いよくインターホンを鳴らす。
 暫く間があって、ドアが開かれると先手必勝とばかりにプレゼントの包みを差し出した。
「橘くん、誕生日おめでとうっ!」
「……え?」
 目をパチパチと瞬かせている橘くんは、目の前の包みと持っている私とを交互に見比べて固まっている。
「あの、遅くなってごめんね? 忘れてたわけじゃなくて、準備に手間取ったというか……」
「……まぁ、立ち話もなんなんで、あがって下さい」
 渡したらすぐ帰るつもりでいたのに、促されるまま部屋に通されて向かい合わせで座る。
 沈黙が辛いのに、私から話題を切り出すことも出来なくて、ただただ橘くんの反応を見守るばかり。
「あの、もしかして昼間誕生日だって言ったから、気遣ってもらったんスか?」
「え、ち違うよ! 昨日の夜思い出して、慌てて今日買いに行ったけど、言われて用意したんじゃないから!」
「今日……ってことは、先輩が学校サボってまで買いに行ってたのって」
 しまった、余計なことまで言っちゃった。
 とにかく恥ずかしさを誤魔化そうと、テーブルに置かれたままのプレゼントを橘くんの方へ寄せる。
「気に入ってもらえるかは分からないけど、実用的なのを選んでみたつもりだから、良かったら使ってね」
「ども。……あ、スポーツタオル。暑くなってきたから、部活用のが足りなくて困ってたんスよ。ありがとうございます……こっちは?」
 スポーツタオルと一緒に包んだ小さな袋。それは、寝る前に仕込んで帰ってから焼き上げたクッキーだ。
「橘くん、甘いの平気かわからなかったから、一応甘くないチーズ風味のクッキーにしてみたんだけど……」
「もしかして、先輩の手作り?」
「うん、そうだけど……あ! 見た通り私は食べるの好きだけど、作るのも好きだから食べれるもののはずだよ!」
 自分で言って少し虚しくなってくるけど、安心して食べて欲しくてつい力説してしまう。
 ダイエット中だから、味見は1番小さな物を1つだけにしたけど、大きいのも生焼けにはなってないはずだし……。
「でも先輩、春と比べて雰囲気変わったスよね」
「あはは、少しはダイエットの効果が出てきたかな?」
 20キロ近くは痩せたけれど、目標まではまだまだ遠い。気を抜いてられないと語る私に、橘くんは苦笑する。
「そういう根性のある人って、俺は結構好きですよ」
 誕生日のお祝いに来たのに、なんて話をしてるんだろう。
 そんな恥ずかしさにかられていた私を、橘くんがさらりと褒めるから、ますます恥ずかしくなってくる。
「あ、その……今のは別に、深い意味は無かったつーか。えっと、ともかくコレ、ありがとうございます」
 俯いてる私から何か感じ取ったのか、橘くんは慌てた口調でクッキーを口に放り込む。
 ちらりと盗み見た橘くんは、なんとなく赤くなっている気がして、こんな顔もするんだとつい見入ってしまった。
 お互い目が合うと、何となく照れくさくて笑いあい、そのままゆったりとお茶して過ごした。
 結局、ドキドキしたのはそのときだけで、あとはいつも通りな雰囲気だったけれど、また1歩橘くんと仲良くなれたような、そんな1日だった。