いつかマンガにしたいなあという雑文。 
 
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「いらっしゃいませ、こんにちは!」
自動ドアが開くなりメニューに釘付けの遊馬は、店員の挨拶なんか耳に届いているのか。
ちょっと呆れながら凌牙は後に続く。
「なんにしよっかなーーー!ああ、新作バーガーうまそう!でもこづかいピンチだからやっぱ100円バーガーかなあ」
 ひとり言とは思えない大きな声でぶつぶつつぶやく遊馬にためいきをつきつつ
「いいよ、おごってやるよ」
 と凌牙が言った。恥ずかしいから大声出すなと仕方なさそうに言っては見る。
けど、本当はただひたすら遊馬を甘やかしたいだけだと、多分まわりにいる人間は全員気づいている。誰も口には出せないが。
「え!?マジ!?やったーーー!」
「セットにすんだろ?ポテト半分よこせよ」
「うん!」
 満点はなまるな笑顔を向けられ、凌牙の顔もゆるんでしまう。もうポーカーフェイスは保てないようだ。
「じゃあ、ビッグチキンバーガーのセットと…あとコーヒー?」
凌牙の注文はいつもホットコーヒーだよな?と遊馬が凌牙を振り返ると
「遊馬、トマト入りじゃなくていいのか?」
メニューを見ながら言う凌牙に
「えー?あーートマトはいいや…」
珍しく遊馬が口ごもる。
「トマト苦手なんだ…」
 それを聞いた凌牙の目がきらんと光った。
「トマトが嫌いだと?」
「え…う、うん…」
 遊馬は凌牙から立ち上るなんだかわかんないオーラにびくりとしつつ答えた。
「………トマトいりにしてくれ」
「え?あ、は、はい!」
 注文をとっていた店員もその威圧感におびえつつ注文を復唱する。
「ええええ!なんでぇ!?」
「うるさい」
 異議申し立てをしようとした遊馬を静かに、しかし容赦なく凌牙は一言で押さえつけた。
「は、はい…」
 
「そもそもなんでトマトが嫌いなんだ?」
 2階席は人もまばらで、ふたりはボックス席に落ち着くと凌牙がそう切り出した。
遊馬はうらめしそうにトマト入りのチキンバーガーをながめながら
「…だってさあ…トマトってなんかグロいじゃん?種のとこがどろってしてて…なんか、腐った柿みたいで…」
「なんだよ。食わず嫌いか?」
「だって食べる気にならないんだよなあーー」
 遊馬の話はこうだった。
小さい頃のこと、ばあちゃんの友達の家についていったことだある。
その家の庭には大きな柿の木があった。
年寄りばかりで採る人がいないからと柿の木には実がたわわに実ったままだった。
その下で「すげえなあ、うまいのかなあ」なんて柿を眺めていたら、いきなりその顔に何かが落ちて来たのだ。
「それが腐りきった柿でさあ。もうなんかキモチワルイのなんのって!今でも覚えてるんだよなあ」
「ふーん、トラウマってやつか…」
「トマトのぐちゃってした種を見るとあの柿を思い出しちゃって…」
「でもそのバーガーのトマトは種は抜いてあるぞ」
 凌牙はバーガーをめくって言った。だいたいこういうものに使われているトマトは種が抜いてあることが多いのだ。
「そ、そうなんだけど…なんか…さあ…」
それでも遊馬は口をつけようとしなかった。というか、ひっこ抜いていい?という顔で凌牙を見る。
その顔にちょっと弱いけれど、ここは譲れない。
トマトは身体にいいし、それにトクベツな野菜なのだ。食わず嫌いならなんとしたいと凌牙は思った。
「とりあえず食ってみろよ。一度食べてみれば本当に嫌いかどうかわかるだろ。食ったこともないんじゃ話にならねえじゃねえか」
 凌牙はあくまで威圧的に言った。こういうときの凌牙に逆らうすべを遊馬は知らない。
半泣きになりながら
 でもぉーーとか、だってさあ…とか意味のない単語を並べている。
根負けしたのは凌牙だった。
 遊馬の持っていたバーガーをひったくるとぱくりと一口かじった。もぐもぐと咀嚼してごくんと飲み込むと
「うまいじゃねえか」と言った。そしてくるっと遊馬のほうに向ける。
「食べてみろよ。ほら。あーん」
「へ……?」
 遊馬は面食らった。それどころじゃない何か不思議なものを見た気がした。
あの凌牙が、いつもクールな凌牙が、自分にバーガーを食べさせてくれようとしている!しかも「あーん」だって!?
「なんだよ?」
「え、いや、えっと…その…。」
「俺の手からじゃ食べられねえって?」
「ま、まさか!そんなわけない…けど…」
「じゃあ食えよ」
 ふっと、今までの威圧感が嘘のように凌牙はやさしく微笑んだ。
「ほんとにうまいんだから」
 遊馬は滅多に見られない凌牙の笑顔に、思わず見とれた。その笑顔のまま凌牙はチキンバーガーを差し出す。
中にはトマトが入ってる。
でも…凌牙の笑顔は…ある意味にらみよりも効果がある。もうさからえないような気がした。
遊馬はえいっと思い切ったようにうなづいて
「かっとビングだぁ!」
とばくりとかじりついた。凌牙の指まで噛み付くイキオイだったが凌牙は動じたりしなかった。
ゆっくりと口の中で味わうようにもぐもぐと口を動かす遊馬をじっと見つめ、彼がごくんと飲み込むと
「どうだ?」と聞いた。
「あ、あれ?」
「ん?」
「なんか甘くて…うまい!」
遊馬は凌牙が持ったままのバーガーにもう一口食いつくと
「なんだ!トマトってうまいぜ!」っともごもごしながら言った。
「食ってからしゃべれ」
と言いながらも、凌牙の瞳はおだやかだった。そしてそのバーガーは遊馬が食べきるまでそのままだった。
「えへへーー!うまかった!」
 全部食べ終えた遊馬が嬉しそうに笑う。それを見る凌牙も負けないくらいの笑顔だった。本人は気づいていないけれど。
 
「でも、なんでそんなにトマト進めるんだよ」バーガーを食べ終えた遊馬はポテトをつまみながら言った。
半分よこせよって言ったくせにポテトもほとんど遊馬のおなかにおさまっていく。
「ん?」
凌牙はコーヒーを一口すすってから
「別に…めずらしくお前が好き嫌いしてるからだ」
と言った。遊馬をその顔をじっと見つめて
「それだけじゃないよな?」
と言った。紅い瞳をじっと向けられて凌牙は少したじろいだ。こいつ、案外するどいんだよな。と思いながら。
 トマトは特別な野菜なのだ。
妹の大好きな野菜。
実のところ凌牙自身も昔、トマトを食わず嫌いしていた。真っ赤な色がどうにも苦手で。
「ねえ!私がデュエルに勝ったら、トマト食べて!」
「はあ?なんで?」
「だってこんなにおいしいのに食べないなんてもったいないわ!」
「食べないよ」
「何よ、負けるのが怖いの?」
「負けるわけないだろ」
「じゃあいいじゃない。」
 果たして。凌牙はデュエルに負けてしまった。
「はい!あーんして」
「う…」
 凌牙はデュエルに誠実だった。デュエルで交わした約束は守らないわけにはいかない。
それを知っていて彼女はこれを提案したのだ。
全力でくんだデッキを携えて。
 でも、妹の食べさせてくれたトマトは本当においしかった。現金なものでそれから凌牙はトマトが大好きになった。
 そしてトマトは特別な野菜になったのだ。
「ね!おいしいでしょ!?」あのときの妹の満足そうな顔を今でもはっきり思い出すことができる。
 
「シャーク、なあ、シャークってばっ!」
 はっと凌牙は意識を戻した。遊馬の顔が目の前にある。
「もう!聞いてんのかよーーー?」
「ああ、悪い」
「まあいいけどさーーポテト全部たべちゃったぜ!」
「そうかよ」
くすりと笑った凌牙に遊馬はにっと笑って
「はい!最後の1本!」と凌牙の口元にポテトを差し出した。
今度は凌牙が面食らう番だった。
「あーーん!」
思い出と現実が重なる不思議な感覚に、凌牙は素直に口をあけた。
「どう?うまいだろ?」
「ああ」
遊馬が満足そうに笑う。あの日の妹と同じように。
 凌牙はその笑顔にまぶしそうに目を細めた。
 
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 なんて話を、トマトビッグチキンバーガー作りながら考えてたわけだ。仕事をなんだと思っている!
いやん、ちゃんと仕事してるもんーーー。
いや遊馬くんがトマト克服してなかったらこんなんもありかなっと思って。(^_^;)
 でも私はトマト好きなので、嫌いな人がなぜにトマトが嫌いなのかわからなくて、けっこう無理やりな理由をこじつけました。
嫌いだけど食べてみたらおいしかった…ってことは見た目かなあと。
 
 長文、読んでくださった方がいるかはわかりませんが、お付き合いありがとうございました!