掛塚灯台と白州灯台。 | Essays in Idleness

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掛塚灯台と白洲灯台は
外観が似ている灯台として
取り上げられることもありますが、
その他のことでも幾つか相似点が
あって、それぞれ
離れたところに建っていても
兄弟みたいな感じの灯台だと
わたしは思っています。

掛塚灯台が建てられているのは
天竜川の河口。
天竜川は、規模の大きな川なのに
その河口で急に
川幅が狭くなっているのが特徴です。


地図上の星印で
左端が中田島砂丘、
中央が現在掛塚灯台の
建っている場所、
右端が明治13年から平成14年まで
掛塚灯台が建っていた
掛塚湊から南西に当たる場所です。

天竜川の西方向には
中田島砂丘に代表されるような
大砂丘があり、その砂礫が
勢いのある遠州灘の潮流に浸食され、
天竜川河口及び東方向の海底へと
流出するため 河口は狭くなり、
その付近は浅瀬が発達しやすい
という地理的条件を持つ地域
になっています。

潮流が速く浅瀬が多い
という条件から、
このあたりは古くから
航行する船の座礁が頻発する
海域でした。

【白州灯台と掛塚灯台の
       似ているところ】
①灯台が建っている海域の環境が
 似ている。

この天竜川河口付近には
かつて掛塚湊という港が
ありました。

掛塚湊は 室町時代から
記録に登場する天然港で、
江戸時代には木材の集散港
として繁栄。
その後、
明治18年に人工の港湾が建設され、
港の管理・運営のため
回船問屋や船主衆によって
『豊長社』も設立。
(豊長社とは、港を通過する貨物に
 手数料を掛け、これを徴収すること で得た資金を 湊建設の借金返済や
 その他運営費として賄うなど
 していた 組織です)

天然港時代には不可能であった
大型船の就航も可能となって、
遠州随一の港となる程に栄えました。


明治41年、
東海道線の複線化を機に
天竜川上流より輸送されてきた貨物が鉄道で回送されるようになると
港の輸送力は急速に減退。
翌年の明治42年に
掛塚湊は廃港となっています。

この掛塚湊の南方に
明治13年
私設の灯台として
建てられたのが、
現在の掛塚灯台の前身である
『改心灯台』です。

灯台を建設したのは荒井信敬氏。
荒井氏は徳川家の
小普請の支配世話役を務めた方で、
明治維新後には江戸から
静岡藩山名郡へ移住。
廃藩置県を経て士族失業後は
茶園の開墾事業に携わり(明治2年)
その後、浜松県
(明治9年の第二次府県統合後は
 静岡県へ統合)
磐田郡へ移住。
開墾を行う傍ら方水量取締役
として従事(明治13年)。
この際、天竜川河口での海難事故が
多発していることを憂い、
灯台建設を発起しました。

荒井氏は
白洲灯台の岩松氏同様に
地元民より灯台建設反対・妨害を
受けながらも、私財を投げ打って
7m高の木造高灯籠式灯台を建設
(明治13年)。
以後5年間に渡って
この灯台の維持管理を自費・独力
(家族ぐるみ)で行った後、
明治17年
西洋式以外の私設灯台が概ね廃止
という通達が出たことを機に
灯台とその運営は掛塚湊の豊長社へと
移管されました。

この間、灯台建設と点灯費など
灯台運営にかかった費用は
747円87銭1厘、
現在の価値にしたら
700万円ほどでしょうか?

大のお酒好きであった荒井氏は、
灯台建設に際し 酒代節約のため、
改心棒と名をつけた丸底の杯で
毎回一杯だけ飲酒するようにし、
その改心したような行いを鑑み、
灯台は『改心灯台』と呼ばれるように
なったとのことです。

②個人が地域住民の反対を
 受けつつも 私財を投じて建設。
 その後社会に灯台が受け入れられる まで、自費で運営していたところが 全く同じ。

尚、現在の掛塚灯台は、
明治25年、
掛塚湊で官設灯台建設への
請願運動が起こり、これが
明治28年 国に受諾されて
明治29年新灯台建設が開始。
明治30年3月現在の姿の掛塚灯台が
旧掛塚灯台設置場所に完成しました。

③現行灯台の設置された年代が近い。
 ※現在の白州灯台の設置年は
  明治33年。

④外観が似ている。
 評価ランクが同じ。
 


《掛塚灯台》
灯塔下部(1階部分)がコンクリート、
上部(2,3階部分)が鉄造の混成構造。
塔の規模16.15m。
評価点58点
Bランク評価の明治期保存灯台。



《白州灯台》
灯塔下部(1,2階部分)が石造、
上部(3,4階部分)が鉄造の混成構造。
塔の規模16.69m。
評価点54点
Bランク評価の明治期保存灯台。

設立年が少し早く、
評価点も少し高いのに、
掛塚灯台は 今のところ
外観の保全が十分とは見えないし、
白州灯台みたいに
建てられている場所が
海上の砂州であるという
注目ポイントを持っていて、
日本の灯台50選に選出されている
ということもなく、
キャンプ場外にぽつんと建っている
割に地味な存在に見えます。

一風変わっていて
素敵な灯台なのに…。

白州灯台がお気に入りの方々には、
掛塚灯台も、きっと
気に入って頂けると思います。
気軽に訪問できる、
白州灯台の兄弟的灯台への訪問を
是非お勧めしたいです。