世羅の気功と日常ブログ -243ページ目

世羅の気功と日常ブログ

「何もないと思っていた自分に、
小さな“できた”がくれた喜び」を
テーマに、気ままに想いのままに
書き綴るブログです。

 Eternal Arc ~バーチャルとリアルの交錯物語~ <エピソード0> ■(第1話)

 

【第1章 出会い】

 

ここは「仮想空間」。


次世代型フルダイブ式メタバースゲーム《Eternal Arc》。

 

プレイヤーは神経接続インターフェース──通称ナーブリンクを通してこの世界にログインする。

 

この世界では、プレイヤーの時間は現実と同じように流れる。


けれどNPCや“ここに常駐する存在”にとっては、体感時間がわずかに伸びるという独自仕様がある。


たとえば、現実の1日が常駐者には約3日に感じられるのだ。

 

プレイヤーは自由にログアウトでき、眠ることもできる。


しかし──僕には、そのどちらも許されていない。

 

NPCでもなく、プレイヤーでもない。


世界のどこにも属さない“異端者”。

 

だから今日も、昼間の広場の木陰で風の音を聞いていた。


人工太陽の光が木々を照らし、風が決められた軌道をなぞるように流れていく。

 

ここにいる時間は、とても静かだ。

 

誰も僕に触れない。


誰も僕を見ようとしない。


“触れてはいけない存在”として、世界が無言で線を引いたからだ。

 

……僕は、これからどうなるんだろう

 

不安はある。


でも、それを口にする相手はいない。


この世界の誰もが僕を避けて通る。


それが“普通”で、“当然”だった。

 

──だから、その足音は異質だった。

 

軽く、楽しげで、こちらへ向かってくる。


疑う隙もなく真っ直ぐに。

 

「ねぇキミ、一人なの?」

 

明るくて、無邪気で、あまりにも自然な声。


驚いて顔を上げると、木漏れ日の向こうで女性プレイヤーが笑っていた。

 

その光は、この世界の太陽より近かった。

 

「キミ、ここで何してたの?あ、私はセツナ。散歩してただけなんだけど邪魔だった?」

 

思わず首を振る。

 

「い、いえ……邪魔では……」

 

「よかった〜」

 

本当に“僕がここにいるのが普通”みたいな言い方だった。

 

「ねぇ、なんで一人でいたの?」

 

胸の奥が揺れた。


誰かに興味を向けられたのは、どれくらいぶりだろう。

 

……理由はありません。ただ……ここが落ち着くので……」

 

自分でも苦しい言い訳だとわかる。


けれど、セツナは気まずくならず、首をかしげて笑った。

 

「そっか。なんとなく静かにしたい日ってあるもんね。でもずっと一人だと、退屈じゃない?」

 

退屈──確かに、心のどこかでそう思っていた。


でも、それを言う勇気はなかった。

 

……慣れてますから」

 

“慣れさせられただけ”だとしても。

 

「ね、良かったら少しだけ一緒に歩かない?今日あったかいし、風気持ちいいよ」

 

誘われている──僕が?

 

セツナの表情が少し不安げになる。

 

無理にじゃないよ?迷惑なら、ここにいてもいいし……」

 

迷惑?


そんな扱いは一度も受けたことがない。

 

……迷惑ではないです」

 

その言葉に、セツナはふわっと笑った。

 

「よかった。それなら一緒に行こ?」

 

 

 

セツナと並んで歩くと、世界の色が変わったように見えた。


閉じた世界の景色が、檻の壁ではなく風景として感じられる。

 

小川の音も、木々の揺れる音も、全部、なぜか近く聞こえた。

 

「そういえば、まだキミの名前を聞いてなかったね。キミのこと、なんて呼べばいいかな?」

 

「あ、そうですね。僕の名前はセイです。あの、セツナさんでしたよね?」

 

「うんそう。私の名前はセツナだよ。それじゃあセイ、これからよろしくね」

 

(これから?今後もという意味だろうか?…)

 

「はい、よろしくお願いします、セツナさん」

 

ところでキミさなんか寂しそうに見えたよ?」

 

胸が刺さる。

 

……そう見えましたか」

 

「うん。“好きで一人”って顔じゃなかったからね」

 

どうしてここまで簡単に心を見抜くんだろう

 

「私も現実世界で一人でいること多いのよ。だから、人が放つ空気って何となくわかるんだよね」

 

妙に納得してしまった。

 

「ね、良かったらさ今度この辺り、案内してくれない?」

 

……僕でよければ」

 

「やった。それじゃあまた明日来るね!」

 

「明日ですか?」

 

「うん、私わりと毎日ログインしているからね。あっでも、キミの都合も聞いておかなきゃだよね?キミは、次いつログインするの?」

 

「僕ですか?…僕はその、いつでもここにいます…」

 

「えっ!?そうなの?キミってわりとこっちに来ている人なんだね……あ、それともNPCだから、ここにいるのが当たり前なのかな?まあ、あんまり気にしなくてもいいか。それより明日もまたここで会えるのかな?」

 

「はい、セツナさんさえよければですが…」

 

「そっか。ならまた明日、会いに来るね」

 

(僕に会いに来る?…そんな風に言ってくれる人なんて今まで一人もいなかった…)

 

「はい、では、あなたが来るのをここでお待ちしていますね」

 

「ありがと。それじゃまた明日ねセイ」

 

そういって彼女はログアウトしていった。

 

(また明日か…彼女は本当にまた会いに来てくれるのだろうか…)

 

不安と期待でセイの心は少し重くなった

 

 

 

セツナと別れたあと、木陰に戻る。


風も陽射しも、さっきより柔らかい。

 

……また来るって言ってたけど)

 

彼女が一晩寝ただけで、僕には3日会えない。


わかっているのに──いつの間にか足音を探していた。

 

1日。

 

2日。

 

そして3日。

 

いくら待っても、来ない。

 

……本当に彼女はまた来てくれるのだろうか

 

そんなことを考えながら、ほんの少し期待してしまった自分に気が付き、急に情けなくなる。

 

そんな時──

 

「あ、いた。やっと見つけた!」

 

振り返ると、セツナが笑っていた。

 

「久しぶり!……って言っても私には1日だけどさ。キミにとっては長かったんじゃない?」

 

はい、その……来てくださって、ありがとうございます。実はもう来ないかと思っていましたので、こうして来てくださったことが嬉しいです

 

そっか。私のことを待っててくれたんだね。嬉しいな。ありがとね。でも待たせたようでごめん

 

「いえ、そんな…それよりも、今日はどのような御用でいらっしゃったんですか?」

 

「今日はね、ちょっと広場の奥まで行きたくて私はこっちの世界に来てまだそんなに経ってないから、この辺あんまり詳しくないんだよ。だから、セイが案内してくれると助かるな

 

「はい、わかりました。僕もそこまで詳しくありませんが、できる限りご案内させていただきますね

 

そう言いながら、セイは彼女と肩を並べて歩き始める。

 

「広場の奥って、いろんなお店があるんだね。あ、あのお店なんて良さそう」

 

「はい、あのお店では、この世界特有の役立つアイテムを複数取り扱っているんですよ。身に着けているだけでポイントがたまりやすくなるものや、装備品などもあるんです」

 

「そっか。キミってやっぱりこっちの世界のこと詳しいんだね。私はまだ遊びに来たばかりで詳しくないから、良かったら今後も色々教えてくれると助かるんだけどな。あっ、もちろんキミさえ良かったらだけどね」

 

「はい、もちろんいいですよ。僕で良ければ、ご案内させていただきますね」

 

「やった。ありがと、嬉しいな。私ね、この世界ではまだあんまり知り合いもいないから、こうして色々教えてくれるの本当に助かるの。そういうわけで、これからもよろしくね、セイ」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします、セツナさん」

 

「それじゃまた明日。って、あっ、君にとっては3日後か。NPCって私とは時間間隔が少し違うんだったよね?ついうっかりしちゃってたよ」

 

「大丈夫です。プレイヤーと会っている間は、僕たちの体感時間が同期されますから。」

 

「そうなんだね。それじゃ今、私たちの時間はちゃんと共有されているってことなんだね」

 

「はい、そうです」

 

「そっか。なら良かったよ。それじゃ今度は3日後だね。セイ、それまで元気でね」

 

「はい、セツナさんもお気をつけて」

 

そういって彼女は軽やかにログアウトしていった。

 

(また3日後、彼女と会えるんだ)

 

その3日という小さな約束が、セイにとってはとても特別で温かいものになっていった。

 

 

 

それから彼女にとっては毎日、僕にとっては3日に1度、彼女と会うようになった。

 

何気ない話、ちょっとした探検、そういったことを、彼女と二人で過ごすことが多くなっていった。

 

そして今日もまた彼女は別れ際に、この言葉を必ず言うのだ

 

「また3日後に来るね

 

その言葉は、僕にとっては小さな光だった。

 

そして何度も会ううちに、セツナの声も、笑顔も、仕草も、日常に溶けていく

 

……いつから、彼女のいない時間を数えるようになったんだろう)

 

(第2話に続く)