私は目を見張っていた。
隣の席の神谷はニヤニヤしながら私をつつく。

「あれはきっとモテるだろうな」

まちこは既に目標としているようだった。
対し、さとねはそうでも無さそうだった。
早坂先生が教壇に立っている青年の肩を叩き、挨拶をするように促す。

「星夜です、宜しく」

声は透き通った低い声で、綺麗だった。
星夜...
なんて素敵な名前なんだろう。
そしてあまりに繊細すぎる彼のすべてを思わず見つめてしまう。

「おい馬鹿、見とれすぎだろ」
「だっ誰が馬鹿なのよ..!」

神谷が口を尖らせてこちらをちらりと見た。

「あんたなにしてんの..」
「うるせーばぁか」
「むっ...!」

私がむっとすると、神谷は切れ長の目で私を見据え、口を開きかけたが、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

変な奴だ。

まちこは休み時間になるとすぐに星夜の方へ行った。
まちこだけでは無い。
クラスのほとんどの女子が。

さとねは机に突っ伏して寝ていた。
私は、群がるのは好まないので、また校庭の桜を眺めていた。

教室の向こうで、メールアドレスをきく声がした。

突然、ひゅうっと風が教室に吹き込んで、同時に桜の花びらが教室に舞い込んできた。
教室のざわめきをかきけすように。

何故かは分からないけど、ほのかに甘い香りがした。

ぼうっとしていると神谷が前の席に来た。

「お前は行かないの?」
「えっ、何処に?」

神谷は教室の女子の軍団を指差す。
私は苦笑いをして静かに首をふると、再び眼下に視線を落とした。

「そっか」

そう呟いた声が安心したように聞こえた。


放課後、私は突如訪れた青年を思い出していた。
教室にぽつんと居るのも悪くない。

「佐崎さん?」

柔らかい口調で誰かに名前を呼ばれ、私は驚いて振り向いた。


続く