何度か申し上げているように、私は虫がそれほど苦手ではありません。
一家に一人いると便利という程度で、それほど役に立つわけではありません。
それでも長く生きていると、たまには人助けになることもあります。

それはとあるスポーツ・クラブの女子更衣室での出来事です。
その日は、私がお気に入りのヨガのレッスンの日でした。
歪んだ身体をかなりサディスティックに締めあげてくれるので、シャワーを浴びた後はとても気持ちがよいのです。

ある日、シャワールームから出てくると、何やら騒がしい気配が。
どこからかアシナガバチが迷い込んで来て、苦手な人がパニックになっているのです。
もしかしたら、アナフィラキシー・ショックの恐れがあったのかもしれませんし、単なる虫嫌いだったのかもしれません。

スタッフのお姉さんが三人、モップと新聞紙を持ってやってきました。

「そっち」
「はいっ」
「押さえて」
「はいっ」
「放して、叩いて」
「はいっ」「はいっ」ぱしっ
「あっ、逃げた」

最初に戻って、後2回ほど繰り返してください。

見ていたら、三人とも腰が引けているのですよね。いつも元気よくてきぱきしているし、エクササイズのレッスンの担当もしている体育会系のお姉さんたちなのですが。
他の人は、早く何とかしてと、すがるように見ています。
まさか男性スタッフを呼んでくるわけにはいきません。それに男性スタッフだからと言って得意とも限りません。

しゃあない、行くか。

「その新聞紙貸してください」
「あ、はい」
ハチの動きをよく見て・・・
ハチが鏡に止まりました。
「はい、あなた、今よ、しっかりモップで押さえて」
「はいっ」
「もっと、グイグイ」
「はいっ」グイグイグイ
「放して」
「はいっ」
バシッドンッ

よろよろとなったハチさん、ごめんね、とどめです。
バシッドンッ
お亡くなりになりました。なむー

はい、もうだいじょうぶ。

「あ、あ、ありがとうございまーす」

いえいえ、お役に立てて光栄でございます。
でも、お願いだから、そんなに私を怖がらないで…



2、3日後、その中の一人とフロントで会ったら、
「先日は、ありがとうございました。あのあと私たちも虫を怖がってちゃいけないって、話し合いましたっ!」元気よく声をかけられました。
うん、頑張ってね。女の子は強くならなくちゃ。