僕も社会人になって数年、業界に入って数年、大学の自主制作映画と比べても仕方がないのはわかってる。

多くの人が関わって多くの企業が商売として成り立つことが求められるのだから、どこかで「良作」であること以上に求められてしまう。

仕事は認められてる方だし、収入も生活に困らない今の状況に文句はない。

だけど時々、大学時代の記憶が僕を空虚な気持ちにさせてしまう。

 

映画は興行収入を考えて何回か企画が変わっており、美香が見た企画書からは三回変更していた。変更は所属事務所が多額の出資をしている映画だから容易にできた。

辰巳はすでに出演を断れないのであれば美香をいら立たせるのは良策ではないと考えて変更されたことを黙っていることにした。

 

顔合わせ日に美香は「すごい。以前よりもずっと素敵な作品になりそうです。」などとプロデューサーに貼り付けた笑顔で感想を述べた。こういう美香の性格は辰巳にはありがたい。

 

それからは撮影が終わるたびに帰りの車で愚痴を聞き続けた。

ある時は台本について、ある時は共演者について、ある時は弁当について…。

なんとか映画も完成し、番宣番組も一通り収録が終わり、この舞台挨拶が最後の大仕事で各マネージャーや関係者と調整に調整を重ねた原稿まで完璧だったのにまだ地雷が埋まっていたらしい。