「では、アクセはピアスとブレスレットだけにしますか。それでも素敵だと思いますが。」辰巳はたまらず口をはさんだ。
このままではどうにもならず、時間だけが過ぎていく。
辰巳が問題解決に参加したことで、田中はやっと吊り上がっていた肩の力を緩めた。
辰巳の声だけで安らぎと少しの高揚感を感じた。
「田中よ、君はまじめで向上心もあるが、トラブル回避に弱い。性格の硬さが臨機応変を上回るタイプなんだよな。」
辰巳は田中を買っているだけに、そこだけがもったいないと感じている。
まじめな性格ゆえに常に準備も万端、確認も怠らず、スタイリストとして前任者の跡を継いで1半年、滞りなく進んでいた。
田中とは撮影現場では話す機会も多く、仕事のことだけでなく趣味や休日どこに行ったかなどと言ったことも話すようになった。
最近、「もっと頼られて自分から発信できるスタイリストになりたい。」といった野心的なことも言うようになり、辰巳も成長が楽しみだ。
まだ若い田中が複数のタレントを掛け持っていることでも有能さがわかる。
今回のアクセサリーも間違いなく美香の好みだし似合ってはいる。
あれだけ忙しい田中が美香の好みを把握しているのは素晴らしいことだが、社会人経験が浅いゆえだろうか人間がどういうものか、まだ一方向でしか見えてないようだ。
「そりゃ、そうだよな。僕もそんな感じだったよな。」辰巳は自分の新人のころを思い出して懐かしくなった。
人間、たとえ同じ人同士であっても接し方は場所と状況で変えていく。
特に表に出る人間はその使い分けが著しい。
「意図的」というより「動物的感」に近いのかもしれない。
辰巳もこれに気付くには長い時間がかかった。
その上、人間の感情はその場で合理的なものだけが生まれるわけではない。
世間で言う「今、そんなことを考えてる場合じゃないでしょ。」というやつだ。
そして、今まさに辰巳は田中からスタイリストとしてのトラブルの安堵感だけでない、空気を感じていた。